著者:石島亜由美さん コメント
なぜ妾・愛人のフェミニズムを書いたのか。
人前で話すことなんてずいぶん久しぶりの機会で、しかもその場のテーマは自分が書いた本について。さらにウェブ開催の威力もあって、参加者は100人近くも。こんな状況で私はきちんと話ができるだろうか・・・と当日まで不安と緊張の気持ちでいっぱいでしたが、セッションは無事に終了(よかった)。そして、9月6日の夜は実に楽しい一夜だったとあらためて思います。
鈴木涼美さんからは本書の要点について鈴木さんの経験と視点から魅力たっぷりに語っていただけました。なずなさんからは、この本がなずなさんの人生にとってどのような意味をもたらすかという観点で――つまり女性学的な問題提起で――語っていただけました。そして、セッションを盛り上げ、それぞれの実感のこもった議論ができるように配慮してくださった――と私は感じた――上野千鶴子さんの登壇者への質問とコメント。
「妾と愛人」というこの“難しい”テーマを、フェミズム内部においてさえも緊張感を生み出すであろうこのテーマを無事に語ることができたことに私はほっとしました。実にフェミニズムらしい場が形成されていたと思います。
なぜ妾・愛人について書いたのか。
なぜ『妾と愛人のフェミニズム』というタイトルにしたのか。
この二つの質問はセッションの中で提示されたものです。これは本書の核心をつくものでした。一夫一婦を基盤とする女性解放のあり方に疑問をもって、妾と愛人という立場から一夫一婦の綻び、妻のフェミニズムの問題を読み解いていくことが私の目論見でした。しかし読者は、本書を読み終えて、妾と愛人という立場に釈然としない思いを抱えることになると思います。なぜなら、妾と愛人という立場の女性がフェミニズムのあらたな担い手となるような革新的な存在だとは私は言い切っていないからです。「妾と愛人のフェミニズム」と名付けたにもかかわらず。むしろポストフェミニズムにおいて利用される存在で、これまでの構造を維持する役目を負う存在としての危惧を指摘して終わっています。
では、なぜ『妾と愛人のフェミニズム』としたのか。正直にいうと「売れる本にしたい」という販売促進の意図があって「フェミニズム」を主題にもってきたという事情もありましたが、私が20年フェミニズムに関わってきて、その中で妾と愛人について考えてきたフェミニストとしての私が書いた本、妾と愛人の立場から妻のフェミニズムの問題を可視化したいという私の問題意識について書いた本という意味を込めてこのタイトルにしました。つまりこれは「私(石島亜由美)のフェミニズム」と言い換えることができるようになっています。
女性学研究からここまでやってくるのにとても時間がかかりました。当事者研究、当事者意識を重んじるこの手法をもって、今後も自分の感じたことを表現していきたいと思います。
もう一つ、セッションの中で上野さんに指摘された「一夫一婦が諸悪の根源だといったリブのことをみんな忘れている」ということ。そしてセッションの最後に、一夫一婦が問題だという認識は共にしたけれども、実際に解体されるのはまだまだ先になりそうだというフェミニストたちの予感。残念だけれども私自身もちょっとやそっとではなくならないだろうと感じています。でもほんとに何とかなんないかなーとも思います。私は妾と愛人という観点からこの規範と制度に石を投げたつもりですが、今度は「老男」(一夫一婦の妻に見捨てられた、性的に枯れた老人の男性)という概念からこの規範と制度に石を投げていきたいなと思っています。
最後にセッションにご参加いただいた皆様、質問・コメントを寄せてくださった皆様、セッションを運営してくださった方々に御礼を申し上げます。ありがとうございました。

【書誌データ】
書名 :妾と愛人のフェミニズム 近・現代の一夫一婦の裏面史
著者 :石島亜由美
頁数 :280頁
刊行日:2023/3/27
出版社:青弓社
定価 :3080円(税込)
参加者レスカコメント
・ 大変興味深くおもしろいセッションで、あっという間の2時間でした。ありがとうございました!
・ 妾・愛人を主題化することの困難について:著書にあるとおり女性学研究の場において、「妻」や「主婦」や「セックスワーカー」をテーマにすることに較べて、近代以降もっぱら社会慣習上の概念として流通するこれらのことばが示すものを分析することが、学術的な「厳密性」を求められる場で困難であったこと、これは石島さんが長年にわたって抱え込んできた問題でした。それは著書にあるように女性学の「学際性」にも関係しており、「学際性」に立脚する石島さんをはじめとした私たちは、この(「女」に関係するある種のことがらの主題化の)「困難さ」をめぐって常に内外から(「女性学のレベルを引き下げる質の悪い存在である」あるいは「女性学はレベルが低い」と)批判にさらされる立場であったわけです。石島さんのご本の誕生の裏には、この点についての石島さんご自身の苦闘と共に仲間同士での議論が存在したこと、石島さんが「アカデミズムの場からはなれる」ことによってついにこのテーマを執筆することができたということに、大きな意味があるということを皆さまに伝えるべきだったとおもっています。正面からこの困難さに取り組まれた石島さんに敬意を表します。
この点をより個人的な関心にひきつけて述べますと、石島さんの分析のなかで、「妾」の部分でそのいわば供給源として「芸妓」の存在が、「愛人」の部分で同じく「ホステス」の存在がピックアップされていました。こういった層を主題化することにも同根の困難さがあると思っています。一方でこうしたいわゆる「接待」業が日本で繁栄してきたことは、基本的にフェミニズム思想が(カップル文化である)西洋キリスト教圏に発生した思想の輸入であることを考えたときに、その輸入先と文化構造的にちょっと違うのではないか。一夫一婦制度を考える上でもその点を構造的なテーマとして考察すべきものであるのではないかと思っています。そういう意味からも石島さんのご研究は私にとって価値のあるものです。
・ 色々な視点からの意見が聞けて、とても有意義なセッションでした。ありがとうございました。途中集中して聞けなかった部分が何箇所かあるので、録画視聴ができるとありがたいです。よろしくお願いいたします。
上野さんへ、婚外子のアイデンティティ・スティグマの問題や、参加者が仰っていた一夫一婦制と子育ての問題は、とても興味深い視点だと思いました。自立とは依存先がたくさんあることだ、と言われますが、子育ても一夫一婦やそれに基づく家族制度だけではとても無理なのは当然で、それが愛人・妾の問題とも関係してくるというのが発見でした。
・ 妾は既に過去のもののように思ってましたが、パパ活などと名を変えて存在するのですね。愛人は盛んな人は不倫という名で存在。と、私の中で整理されました。一夫一婦制が無くなるためには、やはり経済力が必要かと。もはや男の都合良く女が生きる時代では無い。経済が低成長のこの国でトロフィーワイフなどと男が気取ってみたくてももはや殆ど無理なのでは?ましてや、妾や愛人など夢のまた夢でしょう。会社の中で愛人が男の都合良く存在する話はとても興味深い話でした。いずれにしても、全体的にとても興味深く、他では味わえないWANならでは感満載でした。ありがとうございました。
・ 上野さんが階層性を指摘されましたが、階層はやはり抜きにして語れない事柄だと思いました。
・ 上野先生がおっしゃったように、妾は正妻になる資格がなかった人、というので、思い出したのが、ちょっとみた渡辺えりさんの三婆。その二者の服装から佇まいまで、全く違う階層の人間だったなと、思い返しながらきいていました。
参加のみなさんは、一様に結婚はなくて良いとおっしゃっていたが、それは結構特異な人の中のことだからだと思います。
・ 幻想は何処からきて、何処へむかうのか?様々なケアが鍵なのかしらって思いました。
・ 上野先生がシンデレラコンプレックスについてフーコーの和訳、生殖か、そうだって思った。
・ もう少し多くの参加者の声が聞けるような構成にして欲しかった。多くの気付きがあり有意義な会でした。ありがとうございました。
・ 論点がまとまっていない部分はありましたが、いろんな話しが聞けてとても有意義な時間でした。ありがとうございました。
・ 長時間にも関わらず、大変緊迫した議論を展開されてた登壇者の方々のご意見を拝聴でき感謝いたします。
対象の石島さんの著書への要点がきちんと語られていて、そのときは未読だったのですが、概要を理解することができました。学問的なアプローチに人生の実感的なことが底支えになっていることも全体の議論からうかがえました。以下思いついたことを書かせてください。
・ 有意義な催しをありがとうございました。私は70代のある経営者の一代記を執筆する仕事をしたことがあります。書き終わってから、その社長に「お妾さん」が二人もいることを知り、ショックを受けました。決して、表に出てはいけない女性とはどういう存在なのか、これこそ男性による決定的な女性差別だと感じました。自分の人生を語る上で、私にはその存在を明かさなかったのに、酒の席で別の男性記者には打ち明けたのも、社長の心の内が透けて見えるようで嫌でした。この時のもやもやを解消するきっかけが、石島さんの著書の中にあるような気がしています。これから、さらに深く読観込んで考えたいと思っています。また、近代文学の中でも答えを探したいと思いました。ありがとうございました。
・ 楽しいセッションをありがとうございました。一夫一妻制、そもそも確かに、ですね。
でも、若い方は結婚にあこがれ?をもちやすいので、まずは選択制別姓を実現して、気づいた時点ですぐ、離婚をしやすくするのも必要かと。
・ 自分の進みたい生活をするために、何を職業として収入を得て、いきていくのか。男も、女も考えていかなければならない。特に女は子どもができると、仕事ができにくいので、収入の確保がむずかしい。これを改善しないといけないと思う。
20年前福井市で、友達に誘われて「戸塚刺繍」を習い、私達の先生の先生がお妾さんだとおききしました。その先生は料理をしたことがないので、本宅で皆さんと食事をしていたそうです。本宅からも大切にされていたのは、収入につながる特技や技量を持ち、人として尊敬されているからと感じました。
57年くらい前、輪島市で学校に茶道の先生として教えてくれたのは、芸者さんをしていたと聞いて驚きましたが、物静かな優しい先生でした。
父方の伯母は、結婚し、女児を出産しましたが、同じ時期に外の女の人が男子を出産し、私は「男を生んだ」とあまりに威張ったため、叔母は嫌気がさして、娘を連れて家を出て、娘を親戚の所で育ててもらい、自分は働いて、その後職場結婚しました。明るく、働き者で、サバサバしていました。再婚では、80才過ぎまで協力し合っていました。

https://wan.or.jp/article/show/10766
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