第2期WANフェミニズム入門塾の第4回講座が2023年10月19日(木)に開催されました。
今回のテーマは「権力と労働」。講座生3名が自身の言葉で書き上げたレポートで、
当日の講座の様子が少しでもみなさんに伝わればと思います。
第4回 権力と労働 受講レポート みもさ
私は定年退職後、年金生活をしている元高校教員です。
今は教職員労働組合の仕事の手伝いなどをしています。労働組合に入る人が少なく
若い教員がいないため、また、いたとしても忙しすぎて組合の仕事まで出来る余裕の
ある人がいないためです。でもやはり労働組合は大切で、ここで途絶えさせるわけには
いかないと思うので、女性部のアンケートの集計や要求書のまとめなどをしてます。
組合の加入率低下は止まらず、私のように現役中に労働組合の活動をそんなに頑張って
いたわけではないけれど、退職後に労働組合のお手伝いをする女性は結構多いです。
今回の文献を読んだり、フェミ塾での皆さんの発言を聞いたりして、私も自分の働き方を
振り返りました。私が就職したのは男女雇用機会均等法以前で、企業は説明会で
「これからは女性にも男性と同じように働いてもらいます!」と言いながら、男女別賃金で
月額1万円以上差があるのも平気な時代でした。
教員の職場は、賃金は一応平等でしたが、当時高校での女性教員比率は20%未満で、
管理職や主任部長の女性は稀少。家庭責任のない(ケア労働をしないで済む)
男性中心の長時間労働が当たり前。男女別名簿を男女混合名簿に変えるだけでも大騒動
(この時はフェミニズムの言葉は武器になりました)だったし、目を覆うほどの
セクハラ・パワハラ(もちろん初めはこの言葉もなかった)の多発…。
そんな中、組合活動で出会った先輩教員が語ってくれた、産休も満足にとれない時代の話や、
預ける保育所がなく自分たちで託児所を作って仕事を続けた話などを聞くと、
今私たちが育休を3年も取れ、働き続けることが出来るのは、多くの女性が諦めず
要求をし続けたからなんだと実感できました。そしてやはり、この恩は次に送らねば
ならないと感じます。弱い私たちは集まって連帯していかなければ、と強く思います。
ここから、今の私の組合の要求内容を紹介します。
私の入っている労働組合は政権寄りの「連合」ではなく、「全労連」の方です。(念のため)
組合の組織自体は男性中心主義的な部分はまだまだ残っていますが、ここ数年でやっと
「ジェンダー平等」が前面に出てきました。昨年はジェンダー平等推進学習会で
法学の浅倉むつ子さんの講演を聴きました。その中で「そもそも労働法自体が男性中心、
女性の経験に立脚した労働法理論を再構築する必要がある」の言葉に背中を押された気がしました。
というのは、2年前から私たちの県女性部は「妊娠休暇」の新設を要求しているからです。
妊娠は病気ではないものの、何でも出来る万全の体調、ではありません。
つわりや切迫流産などでは病休は取れても、1ヶ月以上でなければ代替教員がつかず、
人によっては出勤と休みが交互になり、大変苦しむ例がありました。
高齢出産や不妊治療が増えた今、必要な人が安心して産休に入るまできちんと
代替教員をつけて休めるような休暇が必要、いわば産前休暇の前倒しという主旨です。
妊娠中の女性を大事に守る制度が、今は足りないと思うのです。
次は生理休暇について。生理休暇は労働基準法に規定された日本独自の制度ですが、
取得率は1%未満です。とはいえ必要な女性には大切な制度で、取得しようとした人に
「周りで生理休暇を取っている人を見たことがない」と言って嫌がらせをした管理職が
いたことが判明し、今追及中です。さらに生理休暇をリプロダクティブヘルス/ライツの
観点から捉え直し、更年期障害にも使えるような制度に変えていきたいとも考えています。
また、代替教員については今年から、「先読み加配」制度が実施されています。
これは最近話題になっている教職員不足・教員未配置に対応した制度で、代替が
必要になる数を考慮して、あらかじめ多めに採用しておく制度ですが、まだまだ
期間や対象校が不十分です。そして非常勤教員(非正規雇用)ではなく、必ず正規教職員で
代替できるような仕組み作りもできていません。たとえ休暇が出来ても、代替措置が不十分で
周りの人に負担がかかるとわかると安心して休暇は取れませんから、これも必要なことだと思っています。
浅倉さんは前述の講演で、「女性差別撤廃条約選択議定書の批准」についても言及され、
国連の委員会に「個人通報制度」が出来るようになれば、日本の司法も変わるのではと
お話されました。男女の賃金格差に向き合わないような現在の裁判は、本当にひどいと思い、
私たちの組合でも請願署名に取り組んでいます。
最近、新聞に岡野八代さんの記事があり、その中で「ケア労働は尊厳に関わる仕事であり、
その価値を正当に評価するためには今の社会の価値観を転換する必要がある」という言葉にも
目を開かれる思いがし、心に留めています。
20年以上前の育休中に、私は遙洋子さんの『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』を読み、
大学の女性学講座に通い始めました。そこで「再生産労働は搾取されている」ことを知った時は、
パラダイムの転換の瞬間でした。帰りの電車で、見える風景が変わった、と本当に思いましたもの。
そして上野さんの講演会を追っかけして、サインをもらって感激してました。
あの頃から、上野さんはネット上でフェミニズムの講座を開きたい、と話されてました。
このフェミ塾に参加して驚いたことは、上野さんは1回ぐらいは登場してくれるのかな、
と思ってたらなんと毎回参加して塾生の発言に丁寧に応じてくださること。
しかもプライベートな雰囲気で…! なんで贅沢なのでしょう。
以上、全体ではなかなか発言する勇気がないので、今回レポートに挑戦してみました。
第4回 権力と労働 受講レポート べっせ
私は現在、韓国の大学院でジェンダーやフェミニズムについて学んでいる。
韓国を留学先に選んだ理由は、「日本よりもフェミニズムに関する話題や運動が活発そうだから」
という理由であった。しかし大学院での学びを進めるうちに、母国・日本でのフェミニズム
について自分が何も知らない、理解していないことに気づき、そんな自分の無知さに向き合う
ためにこのフェミ塾への参加を決めた。
これまでの4回の講座を通して抱いた感想としては、次の2つがある。
1つ目は「やはり自分は何も知らない、自分の浅い経験値で“日本のジェンダーやフェミニズム”
についてどれだけのことを語れるのか」という否定的なものである。
一方、2つ目は「それでもこれまで生きてきた人生の中で感じたモヤモヤした気持ち、
そしてジェンダーやフェミニズムを学ぼうと思うようになった小さな出来事は確実に
自分が経験したもので、それを自分自身が否定したり卑下したりする必要はない」という
肯定的なものである。一見、正反対で共存し得ないように見えるが、なぜ私はこのように
感じたのだろうか。
第4回の講座テーマは「権力と労働」であったが、まさに「労働」を通して多くの女性が
不平等を経験するように思う。有償労働の領域、無償労働の領域、どちらにおいてでも、である。
私の場合、大学卒業後すぐに大学院に進学しているため、社会人としての経験がなく、
有償労働の領域で感じる違和感や差別を経験していない。ゆえに有償労働に関わる文脈の中で、
自分がどれだけその実体を理解できているのか、リアルな感覚を持てているのか、
正直分からない。しかし、これまでの講座内での様々な年齢、地域/国、立場や
バックグラウンドを持った方々と自分の経験や考えを共有するディスカッションを通して、
お互いが全く異なる経験をしてきたにもかかわらず、根底にあるモヤモヤした気持ちは
共通していることに気がついた。つまり、自分の経験を一般化することはできないが、
それがジェンダーやフェミニズムを学ぼうとする姿勢に繋がったという事実は、
どの受講生にも共通していたのである。だからこそ一人ひとりの経験は、
それ自体で十分に意味や価値があると分かり、前述の相反する感想を抱くようになったと考える。
フェミ塾でのあらゆる世代、自分よりも年上、同年代、年下の受講生の方々との
交流を通して新たに見えてくる世界があった。それぞれ異なる環境で生きてきたけれど、
どこかで不平等な社会に疑問を感じて今、こうして同じフェミ塾に参加し、お互いに学び、
話し合い、自分自身の考えをアップデートしている。この事実自体がとても貴重なものだと思う。
「何のために自分はここ韓国で、フェミニズムやジェンダーを学んでいるのか。
自分が学ぶことに意味があるのか。自分は何を社会に還元できるのか。」と自問自答する
日々であったが、フェミ塾を通して出会った方々のお話を聞くうちに、自分のこの学びと
経験にも十分に意味と価値があるのだと考えるようになった。これを私も他の誰か、
そして次の世代に渡していきたい、そう思うようになった。
そのために自分のマイノリティ性だけでなくマジョリティ性にも目を向けながら、
自分は自分の場所で、自分のやり方で立ち向かっていきたい。
途方もない過程に打ちのめされそうになりながらも、闘い続けるしかない。
前の世代が勝ち取ってきた権利や変化を、当たり前のものとして享受できたことに対する
恩返しとして、今度は私たちの世代が一人ひとり闘わなければならない。
私は私の方法で、私の場所で、今後もフェミニズムやジェンダーについての学びを
諦めることなく、闘っていきたいと決心した回であった。
第4回 権力と労働 受講レポート ことこと
生きていくために人は働かなくてはいけない。
だからといって、働けない人が生きられない社会であってはならない。
今、日本の労働者は健やかに働き、生きているだろうか。
また、働けない人も健やかに生きていくためにはどうしたらよいのか。
この様なシンプルな疑問を持って今日の日本における「労働と権力」について
考えると、そこに現れる弱者の顔ぶれが、前回の「性役割」とは少し異なることに気づく。
女性だけでなく男性にとっても(長時間労働、非正規雇用の増加など)働くと
いうことにはジェンダーを超え弱者になりうる可能性を孕んでいる。
今日、専業主婦として私的領域である家庭にのみ留まる女性は少なくなり、
結婚しても働き続ける女性、結婚せずに働き続ける女性、私のようなシングルマザーなど、
様々な立場で労働者として公的領域でも働く女性はたくさんいる。
私は少し前まで非正規雇用労働者として、保育士をしていた。コロナ禍の中で、
勤め先の保育園もしばしば休園になったが、非正規職員であるという理由で
休業補償が支払われないことがあった。使用者側との思い切った交渉も考えたが、
「いやなら、お辞めなさい。」と言われそうな雰囲気に声をあげることを
途中でやめてしまった。女性、非正規、シングルマザー、保育士というケア労働者、
弱者キーワードばかりが並ぶ自分ではあるが、情けない過去である。労働市場において
「腐りやすい財」である労働者の中でも、自分のような立場は簡単に腐って
消えてなくなる存在であると感じた。
家計の助けとしてパートタイマーで働く主婦も私の周りではとても多いが、
彼女たちの働き方にもまた不条理を感じることがある。
彼女たちはおなじみの「○○万円の壁」ぎりぎりで働き、家庭に帰れば家事、育児、
介護を任される。いわゆる「夫の扶養に入る」というやつだ。
どの様に出勤したら、職場での業務に迷惑をかけず、かつ壁を超えず働けるか
彼女たちは考えなければならない。「育児があるから短時間でちょうどいい働き方だ。」
という人もいる。もちろんそれも一つの働き方である。
しかし私は結婚した当初、元夫にさんざん扶養に入れと言われたが、本能的に
必死に回避した。何もかも元夫と自分が一緒くたにされることに抵抗があったという
くらいの理由だったかもしれないが、扶養には入らなかった。
フェミニズムを学びだして、改めてこのシステムを冷静に眺めてもやはり違和感を感じる。
福祉国家としての日本の政策が女性の生き方を多少なりとも抑圧しているとすれば、
ここにも権力が働いていると考えるのは言い過ぎだろうか。
日本の社会保障や税制の制度、慣行は、高度経済成長期以降、自由な労働者である
「男性稼ぎ主」と、家事労働を担う「専業主婦」と「子供」がメンバーとなる
「家族」を前提として、制度設計がなされている。その際、高齢者の介護などの
ケア労働は同居の家庭の主婦に無賞の家事労働として任せることにした。
「家族は福祉の含み資産」と言われるのはそういう理由からだ。さすがにタダでは
悪いから基礎年金制度において第3号被保険者制度を作り専業主婦にも年金権を与えるなど、
ご褒美的な制度が出来、微調整はあるものの、この制度が今日まで続いている。
一方、1970年代には北欧、西欧諸国の多くは「男性稼ぎ主」モデルから脱却した。
この点が気になって、ジェンダーの観点からスウェーデンの社会福祉政策の歴史について
少し調べてみた。スウェーデンでは1930年代には大恐慌による出生率の低下から
人口減少を危惧し、それが引き起こす社会的コストを回避すべく、福祉国家としての
視点を勤労女性が結婚、出産、育児をすることを前提にして議論がなされたということ、
社会保障を受ける権利の基礎は個人とされているということなど、
私には驚くことがいろいろあった。
日本とは考え方が全く異なるのである。そこには、「家庭の主婦はみんな
喜んでケア労働するものだ。」とか「きっとみんな家庭を安らぎの場と
思っているに違いない。」という思い込みはない。
日本は年々核家族化、少子化高齢化は深刻になり、賃金は上がらず、
50年ほど前に描いた「家族」は姿を消しつつある。「含み資産」である専業主婦による
家庭内のケア労働は困難になり、税金を投入して公共化するのではなく市場調達型へ舵を切った。
今回の講座で上野先生はこの点に言及された。
舵を切ってしまった先には、どんな問題があり、どう対処すべきか、私の頭では
「心配でしかありません。」としか答えられない。
うっすらと空全体にかかった煙のような抑圧が、当たり前の景色になりつつある今、
我ながら拙い答えだが、見当はずれでもないと思いたい。
当たり前過ぎて見過ごされてきた「家事労働」や「ケア労働」などについて、
弱者の立場で真剣に心配すること、それが今、私に出来ることの一つかもしれない。
☆関連サイト☆
・【選考結果メールを送りました】 WANフェミニズム入門塾 第2期生を募集します!
https://wan.or.jp/article/show/10511
・第2期WANフェミニズム入門塾【動画を見て話そう】 第1回「リブとフェミニズム」レポート
https://wan.or.jp/article/show/10718
・第2期WANフェミニズム入門塾【動画を見て話そう】 第2回「フェミニズム理論」レポート
https://wan.or.jp/article/show/10801
・第2期WANフェミニズム入門塾【動画を見て話そう】 第3回「性役割」レポート
https://wan.or.jp/article/show/10865
2023.11.07 Tue
カテゴリー:新編「日本のフェミニズム」
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