~フェミとお金の融合~
私は雑誌をぱらぱらめくるのが好きだ。男性誌・女性誌という区分もずいぶん古臭いが、内容の違いにはもっと驚かされる。男性誌で余剰資金を使った投資についての読み物が展開される中、「スーパーで買った豆苗をいかにして自宅で育てて2回以上収穫するか」の節約術を女性誌で目にした時には頭がくらくらした。
お金への向き合い方、お金に関する情報がなぜこんなにも偏っているのか。
行け行けドンドンの投資話でも、食いつなぐだけでもないお金との関係性はどこで学べばいいのか。
そんなモヤモヤを晴らしてくれる本と出会った。
『お金の知識があるだけで あなたが見られるはずのとびきり輝く世界について』の著者である安藤真由美さんは、元ファンドマネージャー。お金のプロだ。本書の表紙を見ても、お金との付き合い方にフォーカスしたものに見える。しかし、彼女はもう一つ重要なバックグラウンドをもっている。
彼女はファンドマネージャーやアナリストとして企業分析をする中で、日本企業の競争力の低下は男性中心で同質性の高い組織の在り方に問題があるのではないかと気づき、お茶の水大学大学院でジェンダー研究を学んだ。その学びが本書のコラムでしっかりと活かされているのだ。なんてだまし討ちだろう!お金の不安を抱えた女性たち(日本の男女賃金格差の中で、不安を抱えていない女性がどれだけいるだろうか)が、「うっかり」マネー本だと思って読み始めたらジェンダーまで学べてしまう構成の本になっている。
本書には、財テクとしての「貯める・稼ぐ・投資で増やす」という基本について、非常に具体的なアドバイスも含まれる。そこはさすがお金のプロで、財務諸表やPEST分析などをかみ砕いて解説し、個人向けにアレンジ。一方で、家父長制、日本型雇用、職場でのハラスメントなど構造的な問題を指摘し、「あなたが工夫さえすればよい」とお金とジェンダーの問題を個人の問題にすり替えてしまわない毅然とした著者の態度が見られる。また、家計管理本でありがちな「稼ぎ頭の夫」「支える妻」「子供」のような家庭を想定とせず、「ご自身」「家族1」「家族2」と非常にニュートラルな表現をしており、どんな人でも活用できるような配慮も感じられる。
また、よくある「これさえやれば大丈夫」のような安請け合いはしないのが、本書の信頼性をより高めている。「女性だから」といったバイアスをなんとなく受け入れるのはやめようと説くのと同時に、「この本に書いてあるから」で自分が理解していない投資に手を出すのはやめようと説く。単なるマネー本であればなんとも歯切れが悪いと感じられるかもしれないが、経済的状況も含めて女性が自己決定権を持つことを後押しする本だと理解すれば、自ら考えて選べるようにという著者からのエールに心が温まる。
WANをご覧のみなさんにもぜひ手に取ってほしいが、みなさんの周りいる「ジェンダーには興味がないが将来は不安だ」という女性にぜひプレゼントしてみてはどうだろうか。
【目次】
序章 最高の旅に出発しよう
「貯める」「稼ぐ」「増やす」の中から自分が得意なものに重点を置く
自分の人生の舵を他人に渡してはいけない
お金とのつきあい方では、自分らしさを何より大切にする
第1章 お金とつきあう前に準備すること
お金が整えば、自信が生まれる
お金について知ることは世の中を知ること
コラム いい人ほど、自ら「自分に不利な考え」に従ってしまう
自分への投資は最高の投資
お金と同じくらい、あなたの時間やエネルギーにも価値がある
第2章 心地よく貯める
キリギリスもアリも危険な生き方
お金の問題はお金がないことではない
投資をするのは学んでから
節約をがんばるより、何に使うかを見直した方が貯まる
浪費とは後悔のある買い物のこと
一銀行1000万円以上は預けない
見直しはサブスクからすると、大きく「整理」できやすい
第3章 自分らしく働いて稼ぐ
FIREはおすすめできない
大切にしている価値感と譲れない想いがある人の方が強い
経済的自立は人生の自立
本当にやりたいことを、自分らしい働き方で始めよう
副業をしよう
自己投資なくして、安定したお金の道はありえない
コラム 臨時収入は、未来の自分への贈り物に
第4章 むりのない投資で増やす
投資とは、「車の運転」のようなもの
まずは自分が投資する商品がハイリスクなのか、ローリスクなのか把握する
あなたの「時間」「知識」「リスクにどれだけ耐えられるか」の3つで投資をどうするか決めよう
投資を実際に一緒にやってみよう
目論見書のどこをどう読めばいいのか
リマインダーをセットしてモニタリングするためのしくみをつくる
【書籍情報】
価格 1,760円(税込)
ISBN 9784296001798
発行日 2024年01月09日
著者名 安藤 真由美 (著)
発行元 日経BP
ページ数 344ページ
判型 四六
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/23/12/13/01177/