※この書評は、乙女塾の公式サイトで掲載したものを、WANのご厚意によって転載させていただいたものです。乙女塾については、文末をご参考ください。

いまどきの大学生は羨ましい。ジェンダーやセクシャリティに迷いがあろうがなかろうが、これだけ現場を体験した先生から学術的に体系づけられた学問を学ぶことができるのだから。

『ジェンダー&セクシュアリティ論入門』これは明治大学文学部の「ジェンダー論」をはじめ、慶應義塾大学法学部、東京経済大学、多摩大学、都留文科大学といった名だたる大学で三橋順子先生が行った授業の講義録を元にしています。明治大学では大講堂に殿堂入りして階段にまで生徒がすわって履修したという名物授業です。

わたしが、10数冊の本を乱読して獲得した「ジェンダーとは」「セクシャリティとは」「自分のアイデンティティとは」ということを、簡潔に体系的に1冊の本で読めるよめるようになっています。

それも単なる研究者としてではなく、医者のご家庭出身から得た医学の知識もおありです。またその後、日本歴史学を学んできた背景をもちながら、Trans-Womanとして現場を生きてきた上でまとめられています。

だからこそ他の、男性からの女性差別のジェンダー論など一線を画して語れる事が多いのです。歴史を紐解けば昔もそうだったように、キリスト教的な男女二元論から離れてこれからの性の多様性社会を生きていくには、当事者、非当事者かかわらず必読の本だと思います。

過去に三橋先生のインタビュー記事を掲載してますので、そちらでもどのような活動をされていたのか知ることもできます。

https://otomejuku.jp/media/10686/
https://otomejuku.jp/media/11433/
https://otomejuku.jp/media/10628/

個人的な思いとして、トランスジェンダーという言葉を自己のアイデンティティとして与えられたとき、その中でも「ジェンダー」という言葉に対する“もやもや”がありました。そもそもジェンダーってなんだろう、セックスとどう違うのだろう。本当に自分はトランスジェンダーなんだろうか。そんな想いを抱えいろんな本を紐解きました。

ジェンダーと言う言葉は、一般的に女性学の一環としてのジェンダー論として、比較的フェミニズムの文脈で語られることが多いです。その代表的なものに、ジュディス・バトラーの「ジェンダー・トラブル」があります。

バトラーいわく、セックスは男根ロゴス的家父長制異性愛(男が言葉で考えた女性異性愛で支配する家族像)であり、ジェンダーはその家父長制異性愛から女性を解放するために発明された社会的性別であると(実際は、そんなにザックリした話じゃないですが)定義づけていましたが、それはレズビアンでかつフェミニストでもあるバトラーならではの解釈で、とても同意はできるものの、自己のジェンダーを定義するには曖昧な概念でした。(バトラーの醍醐味は最後にジェンダーがセックスを上書きするところなのですが)

三橋先生は、巻頭で難解なバトラーを読んでも、たしかに学問にはなるけど、99%の学生には役立たないだろうと言ってました。そんな先生は、わたしたちにわかりやすくジェンダーとセクシャリティ(セクシュアリティ)を次ぎのように説明してくれます。

ジェンダーとは:人間が生まれたあと後天的に身につけていく性の有り様

セクシャリティとは:性についての欲望と行為に関わる事象の統合

この2つを鍵に、もともと歴史家だった先生の研究をもとに、いつから男らしさ、女らしさが生まれたのだろうとか、そもそも論を紐解いて、今当たり前だと思っていることが、以外と最近のことだったのねということに気付かさせてくれます。とくに日本の歴史を深くひもといたセクシャリティ論は圧巻です。

インターセックスや性分化の話も書かれているのですが、人間は立位で妊娠するため、出産時に脳が完成しておらず、脳の性別が決定するのは、思春期までかかると読んだことがあります。そしてその確定も、揺らぎがあるもので、壮年になって性別違和を感じることもある。後天的に性を身につけるとはまさにこのことを言うのだなと、自分のコトを振り返って思いました。

そして性を4要素に分解(いわゆるSOGIESC)するのですが、この本でわたしが一番、膝パーカッションをうって感動したのは、それを多層階層にして解説するところです。この図をみれば、わたしたちの性がどうなっているのかが一見してわかると思います。随分前に発表されていたようですが、今まで知らなかった自分が恥ずかしい……。

最後の2章では、フェミニズム系の同様の本ではまず書かれることのない、性の多様性論として日本のLGBTQ+についての先生独自の見解を示してくれて、一般に流布されている情報の危うさを知りました。
そして最後には、日本初のトランスジェンダーの大学教員として、ぶつかったトラブル、認めてくれた人達など、先生が切り開いていった歴史を読むことがあります。先生みたいな人がいたからこそ、当事者、非当事者かかわらず、多様な社会で学問を学ぶことが出来るんだなと、あらためて読んでて感謝しました。

書評の最後に強く印象にのこったのは、かなりのページを割いてあつかったフェミズムについての話です。フェミニストは、いまトランスジェンダーを支援する人達と、TERFといわれる身体的性別主義者としてトランスジェンダーを否定する人達に分裂してしまっています。ジェンダーを学ぶということは、なぜ御茶ノ水女子大はTrance-Womanの入学を許可し、そしてなぜバックラッシュがあったのかを避けて通ることはできません。

男女平等参画社会を訴えても、ガラスの天井があり、セクハラがあり、収入格差があり、役員や議員が30%を超えない女性の社会と、Trance-Womanの置かれている立場は同じです。これらを決めているのは全て男性ジェンダーなのです。フェミニストとトランスジェンダーはこの問題についてやはり共闘すべき仲間なんだと強く思いました。

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