フェミニズムはいま何を議論すべきか
2023年1月末に,ある研究会で江原由美子先生の単著『持続するフェミニズムのために――グローバリゼーションと「第二の近代」を生き抜く理論へ』の読書会をしてくださるということでお邪魔しました。
その場で,上野千鶴子先生が江原先生に「よくぞ本書を出してくださった」と激賞され,その夢のような場面に立ち会えた喜びから,ぜひとも次のステージへとつなぎたく,即,上野先生と江原先生にお願いして実現したのが本書です。
何度か編者会合をお願いし,先生方へ執筆依頼したのが6月初め。第一線で活躍する先生方が,ほぼ二つ返事でお引き受けくださり,7月末と8月末にはオンライン研究会で,まず江原先生の本についての読書会,そして今回の本のご担当章について発表いただきました。
金融資本主義化によって資本主義自体が変容し,労働力の再生産を担わされてきた家族と国家も大きく変化しているいま,対象とする社会自体が変わっている中で,フェミニズムは何を議論すべきか。
そこで出た論点はさまざまです。資本制と家父長制,労働力と再生産,グローバル金融資本主義とフェミニズム理論,マルクス主義フェミニズム,ケア,国家,社会政策,労働,貧困,女性と軍隊,新自由主義。ジェンダー論の根本概念の再考や,貴重な実証データと分析,最先端の理論や海外の動向の解説など,たいへん充実した刺激的な内容でした。
11月には草稿をいただき,研究会での検討の後,なんと締切どおりに年末から年明けに続々と御原稿をいただいたのです! その興奮はいまだ冷めやらずという思いです。いずれも力作で,夢のような本であることの有り難さを何度もかみしめました。
本書を担当できたお陰で,私自身,フェミニズムはどうあるべきかが気になっていた自分の視野の狭さから解放されました。次の世代が自由に羽ばたけるように,集団でエンパワメントをすることの意味も再確認し,自由なフェミニズムの原点に触れた思いで,とても勇気づけられました。
どの章からでもいいので,ぜひともお読みいただきたい本です。
目次
序 章 今フェミニズムは何を議論するべきなのか──ネオリベラリズムとグローバリゼーションを超えて(江原由美子)
第1章 再生産費用の分配公正を求めて──家父長制と資本制・その後(上野千鶴子)
第2章 グローバル資本主義と再生産領域の金融化──「フェミニズムの相貌を気取る新自由主義」を異化するフェミニズムを(足立眞理子)
第3章 資本主義批判としてのフェミニズム──マルクス主義フェミニズムを振り返る(伊田久美子)
第4章 生産中心主義批判から,リベラリズムとの対抗へ──第二波フェミニズム理論はいかに継承されてきたか(岡野八代)
第5章 「男性稼ぎ主」型が命と暮らしを毀損している──社会政策の比較ジェンダー分析による洞察(大沢真理)
第6章 ケアの再公共化とフェミニズムの政治──福祉国家・ケア・新自由主義(山根純佳)
第7章 女性の貧困の再考察──長期時系列データから(阿部彩)
第8章 女性労働のゆくえ──能力発揮をフェミニズムはどのようにとらえるか(金井郁)
第9章 フェミニズムと戦争・軍隊──21世紀の新たな難問(佐藤文香・児玉谷レミ)
第10章 フェミニズムの新自由主義化に抗う──女性解放の現代的課題(三浦まり)
◆書誌情報
書名 :挑戦するフェミニズム――ネオリベラリズムとグローバリゼーションを超えて
編者 :上野千鶴子・江原由美子
刊行日 :2024/8/17
書誌データ頁数 :332ページ
出版社 :有斐閣
定価 :3190円(税込)
2024.08.24 Sat
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