クリスマスも直前の12月22日の日曜日、例の女性のための相談会が東京池袋で開かれました。
コロナ禍の最中の2021年3月に始めた会ですが、その後も断続的に開かれています。こんな会はコロナが終わればもう必要ないはずでしたが、その後、失業・DV・子どもの養育・病気・離婚したいが生活できるだろうかなど、相談事を抱えている女性は減るどころか増えています。
この会では、相談に応じるための労働組合関係者、女性支援団体関係者、法律家、保健師、看護師、介護福祉士などの専門家がいて相談に乗り、マルシェではお米や野菜、下着や生理用品、化粧品などを提供し、カフェではいろいろな軽食や飲み物を準備して、ほっと一息ついてもらう場所を設けています。わたしはカフェ担当で、温かいみそ汁やお菓子をテーブルに配る仕事を引き受けていました。
11時開場と知らせていたのですが、10時半にはもう外の廊下に並ぶ人が現れました。最初に入ってきた40代の女性Aさんは、カフェに座って、相談用紙に記入し終えると、カフェ作成のフルーツサンドイッチを一気に食べ終わり、容器に盛った炊き込みご飯を平らげ、テーブルに置いてあったお握りに手を出しました。それほど空腹だったのです。
次に来た50代の女性Aさんも、まず温かいみそ汁と炊き込みご飯を注文、一気に食べ終わりました。テーブルの上に置いたお菓子はすぐなくなりました。そこで食べるのではなく持ち帰るために、持参の袋にいれているのです。メニューを見て、生姜茶を注文されましたので、紙コップに入れた熱い生姜茶を運んで手渡しました。その拍子にBさんの手にちょっと触れました。と、その冷たかったこと、思わずこちらの手を引っ込めたほどの冷たさでした。
その次に来たCさんは、大きなスーツケースを持って来ていました。毎日の生活用品を詰めてネットカフェなどで泊っている人なのかと思いましたが、そうではありませんでした。そのスーツケースはからで、マルシェの品物をできるだけたくさん持ち帰るために持って来られたものでした。Cさんは以前この相談会に来たことがあるリピーターでした。
キッズコーナーも準備しているので、子どもを連れた人も何人か来ました。キッズコーナーでは保育士の資格のある人が、エプロンをかけて1日子どもの相手をしています。前に来た時よりすっかりお兄ちゃんになって、小さな子と上手に遊んでくれていた、とあるスタッフは話していました。
Dさんは、わたしが菓子箱のお菓子を補充しているとき、テーブルの向こう側から話しかけてきました。60代でしょうか、黒っぽいコートに少し白髪の混じった髪の毛、体格はやや太めで、どこにでもいそうな女性です。
Dさん:最近チョコレート食べていなくてね。チョコレートがあるのは嬉しいね。少しもらっていい? 実は路上生活なの、もう1か月ぐらい。
わたし:どうぞ、どうぞ。 え? 路上? どこで?…今寒いでしょうに。
Dさん:寒いよ。寒い夜は、歯が合わなくてがちがちいうの。ほんとにがちがちいうんだよ。そのがちがちで寝られなくなる。
わたし:どこで?どこかの公園で?
Dさん:〇〇区の駅の近くで。最近ショックだった、近くに寝ていた男の人が死んだの。その人酒を飲んで寝てた。酒を飲んでいびきをかいて寝てたの。夜中2時ごろまではいびきが聞こえていた。そのうち聞こえなくなった。朝5時ごろお手洗いへ行ってその傍を通ったら、おかしい、息をしていないみたいなの。驚いて近くの公衆電話で110番した。すぐ救急車飛んできて運んでった。もっと早くいびきが聞こえなくなった時に救急車呼べばよかったかなと思うけど、自分もそれどころじゃないし、誰を呼んでいいかわからない。ショックだった。私もいつああなるかもわからないと思って怖くなった。今までで一番のショックだった。
わたし:へー。この東京でそんなことがあるんですか。
Dさん:ここへきて相談して、あした生活保護受けに一緒に行ってもらうことになったの。ここへきてほんとによかった。助かるよ。
こちらはあまりの話にあわててしまって、「へえ」とか「それはたいへん」とか、あいづちを打つのがせいいっぱいでした。
こうして、11時から夜7時までの間に90人の女性が訪ねて来ました。相談チームのまとめた相談の一部を以下に記します。
・30代 シングルマザー。子どもが複数いて子ども手当をもらっている。働きだして 手取りが20万円を超すと手当がどうなるかわからず、不安だ。
・40代。元彼からDVを受けて、家族が死亡し、一人きりになった。複数の持病があるので、将来の生活が不安。
・50代。 配偶者から経済的DVの加害を受けて、精神疾患。離婚したいが、自立できるだろうか。
・40代。夫が仕事も育児もしない。子どもが複数いて、別れを切りだしたら、脅されている。相談をして初めてドメスティックバイオレンスを受けていると自覚した。
・60代。 持病がある。すぐに落ち込んで何もできなくなり、家事ができずに困っている。生活保護を受けて、老朽化した賃貸物件に住んでいるが、壊れた水回りについ て家主が対応しない。
・40代。 障害年金をもらい、就労型の施設で働いていたが、コロナの後遺症で働けなくなり、復帰したら施設の状況も変わっていて辞めた。そこでの収入がなくなり、障害年金だけの生活だが、年金の更新について不安がある。
・50代。 所持金が少なく、病院に行けない。体調が悪いが、保険証が有効ではないので、病院に行けない。
・20代。 親からDVを受けていて、郷里から出てきてフリーランスで働いていたが、 体調を崩して働けなくなった。保障が何もないので、家賃が払えずに困っている。
食べる物も十分なく、医者にも行けなくて、不安をいっぱい抱えた女性たちがこんなにいるのです。この貧困は、女性が悪いせいではありません。みんな必死で働いて頑張っているのに、普通の暮らしもできず不安いっぱいというのは、そもそもおかしいです。ここに来たのは国家の無策の犠牲者たちです。国が女性の働く場を増やし、子どもを育てやすくし、暴力をふるう夫と離婚しても生活できるように保障し、病気になっても生きていける制度を作り上げなければ問題は解決しません。
ですから、こうした不定期な相談会は焼け石に水どころか、ほんの数日の食糧の補いにしかなりません。でも、困っている人が目の前にいます。たった1日でも困難から免れる日を提供できたらいい、と実行委員は知恵を出し合っています。そのつど有志が集まり、何度もZOOMの実行委員会を開いて、寒い時は温かいみそ汁を準備し、暑い時は冷やしうどんを提供しと、限られた施設の会場でやりくりしてきました。今回はきれいなフルーツサンドが大人気でした。
サンド制作係りはその場で、薄く切った端の軟らかい食パンに生クリームを絞り出し、色取りのいい、みかんといちごとキウイを手際よくのせます。もう一枚のパンをのせて少し重しを置きます。その後、断面のフルーツの切れ味がいいようにと、よく研いできた包丁で対角線に沿って切れば出来上がり。それをすぐ紙のお皿に乗せて運ぶと、二口三口でほんとにおいしそうに食べてくださる、カフェ担当の一番うれしい時でした。
来年はもうこういう相談会が必要でない年になってほしいと願っていますが、それでも相談に来る人から次はいつですかと聞かれてしまいます。とりあえずは3月に第9回目を計画しているところです。