
このコラムで1月にも書いた、女性のための相談会です。去る3月20日には第9回めを開きました。本当はこういう会は開かなくてすめばそれがいちばんいいのですが、残念ながら、まだまだ開く必要があるのです。
この相談会で、わたしは全く非力です。非正規で仕事がなくなった人の労働相談にも、夫のDVで離婚を考えているという法律相談にもかかわれないし、生活保護を受けたい人のお手伝いもできません。ただ、相談に来た人がお茶でも飲んでゆっくりできるカフェなら担当できるだろうと、毎回カフェをうろうろしています。
このカフェでは、特別企画として去年の夏は冷たいうどんを、12月にはフルーツサンドイッチを提供して好評でした。今回は誰かが言いだして、ちらし寿司とどら焼きを、ということになりました。わたしは実はやったことがないのですが、簡単そうで自分でもできそうだというだけの理由で、どら焼き係に手を上げました。
スタッフの皆さん、本当にアイディア豊富で情報通です。おいしくて安いどら焼きの皮をその製造元から仕入れてくる人、営業用のこし餡を大量に安く仕入れるルートを知っている人、餡の上に乗せる桜の花の塩漬けを買ってくる人、やはり餡の上に乗せる小ぶりのいちごを準備する人、それぞれ、みなさん手分けして準備万端整えてくださいました。わたしは一日中、2人のボランティアさんと一緒に会場の隅でどら焼きの皮に餡を載せ、その上に桜かイチゴを載せていました。
相談に来た人たちは、たいていは大きな荷物を持って、初めての会場におずおずと入って来ます。受付をすませてインテークの係に相談の趣旨を伝え、労働問題担当者とか弁護士とか専門家との相談を待つことになります。最初の段階の用件をすませた女性たちは、ここでやっとほっと一息です。
ここからカフェの出番です。飲み物や簡単な食べ物のメニューを持ったフロア担当者が近づいて、「温かい飲み物でもいかがですか」と注文を聞くことになります。注文には「桜どら焼きとほうじ茶」とか、「イチゴどら焼きと紅茶」とか、必ずと言っていいほどどら焼きの注文が入ってきます。作りたてのどら焼きはほんとに評判がよくて、作る先からさばけていきます。
1袋に6枚入ったどら焼きの皮を1枚1枚はがすのが大変です。くっついた皮を破れないようにそっとそっとはがします。1㎏入りのこし餡を袋から絞り出して器に入れておきます。絞り出しにもけっこう力が要ります。皮に餡と桜かイチゴを載せるだけの確かに簡単な仕事ですが、載せる餡の量には神経を使います。200枚の皮に4kgの餡と、準備された量が決まっているからです。
隣のテーブルでは、炊いたご飯をおかまごと持ち寄って、錦糸卵と桜でんぶにきざみ海苔、それに冷凍をとかした枝豆をまぜ合わせて、春らしいちらし寿司が出来ています。もちろん食品衛生法も学び、それに抵触しない範囲での食品の提供です。
いつもの会のように、お握りもパンもテーブルに準備してありますが、特別メニューのちらし寿司とどら焼きは大好評で、ちらし寿司は午後5時には品切れ、どら焼きも6時にはなくなりました。結局、今回の相談に来た人は116人、1日の開催では過去最多となりました。
メディアチームが後でまとめたものですが、相談の一部に次のようなものがありました。
・40代 シングルマザーで、子どもと5人暮らし。生活が苦しく、家賃を優先せざるを得ないので食費が払えない状態。食糧支援を受けるために来た。
・50代 派遣で働いていたが、若い人に優先的に仕事を回される。定年退職後の暮らしが心配。
・50代 年収が低いので住宅費が占める割合が大きく、携帯代も税金も滞納している。都営住宅に応募しているが、当たらない。日本には収入の低い中高年向けの施策が少ない。
・50代 別居中の夫が生活費を出し渋っている。生活費が減らされると、自分が医療にかかることができなくなり、困っている。
・年齢不詳 幼い子どもがいるが、夫が避妊に協力せず、常に再び妊娠する恐れがある。自分にはキャリアがあるが、仕事に復帰できない。
・70代 働かないと年金が少なくやっていけない。働きたいが、高齢のため働き口が
ない。
まさに、日本の女性の置かれた状況の縮図です。シングルマザーで必死に子どもを育てているのに、その子どもに食べさせる食費も十分に得られない。ふつうに働いてきて70歳になって、年金だけでは暮らせなくてまだ働かないといけない、なのに高齢だからと言って仕事もみつからない。全く情けない話です。国の経済政策、社会福祉政策の貧困以外の何物でもありません。相談会も支援会も各地で開かれるようにはなりましたが、国の無策に対しては、焼け石に水にもなりません。でも、こうして困っている人がいるのを知らん顔で見過ごすこともできなくて、しこしこと続けているといった現状です。
どら焼きもちらしずしも、カフェチームのメンバーが勝手に考え出して、自分たちも楽しみながら試した新メニューでした。相談にきたのは、いろいろ問題を抱えているけれど、周囲に相談する人もなく、わらをもすがる思いでためらいながらやってきた女性たちだったのでしょう。せっかく思い切って相談にきた人に、ほんのひと時だけでもほっとして、ゆったりした気分になってもらえたらいいという、そのための細々とした試みです。私自身は、おかげで今まで作ったこともないどら焼きづくりのエキスパートになれましたし、袋の餡を楽に取り出す方法もマスターしました。この会に参加できてよかったと思います。
ただひとつ残念なことがあります。とてもおいしそうにできた春らしいどら焼きの写真を皆さんにお見せしようと思って、はたと気がつきました。この日は終日、初めてのどら焼きづくりに奮闘し、後から後から来る注文に追われて、スマホをとりだす暇もなく、1枚の証拠写真も撮っていなかったのです。