女の本屋

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志水・山下編『「慰安婦」問題の解決に向けて---開かれた議論のために』

2012.10.24 Wed

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. 本書は、1991年金学順(キム・ハクスン)さんの「慰安婦」としての告発以降、それぞれの立場からこの問題を、戦後日本社会の歴史、政治、文化、ジェンダー構造を問い直す問題として、真剣に向き合ってきた者たちとの間に交わされた、シンポジウム(2012年3月、同志社大学)の記録である。

現在、領土問題というハード(と思われがちな)な政治問題が中国、台湾、韓国そして日本の間で連日のように議論され、その陰で、「慰安婦」問題は、単なる政治的カードとして取り上げられるかのような扱いを受けている。

しかし、この問題は、慰安所を過酷な戦下で闘う下級兵士のために作ってやったと胸を張って自伝で述べた中曽根康弘元首相に象徴されているように、じっさいには、長きにわたって日本の政治と社会風土の土壌に、しっかりと根を下ろしていた問題だ。そして、20年以上もの間、その根を断ち切るチャンスに開かれながら(当事者からの要求だけでなく、国連人権委員会、ILO機関からの勧告を政府は無視)、国内での反対勢力に恐れをなして、政府は立ち向かうことを放棄してきた。

本書は、それでも、1995年、河野談話を土台に、村山政権下で立ち上げられた「女性のためのアジア平和国民基金」をめぐる報告--基金立ち上げに深くかかわった、和田春樹さんや、1992年に提訴された「関釜裁判」を支援し、元「慰安婦」の方をずっと支援されてきた花房恵美子さんの報告を含んだ--の貴重な記録である。

本書を読めば、日本がこの20年間で問われてきたのは、河野談話の基本的な事実認識に基づいて、では、過去清算されてこなかったこの問題について、国家としてどのような政治的・法的判断を下すのか。つまり、元「慰安婦」の女性たちの訴え、声、そして声なき声に、日本社会が国際社会に向けて、その態度をはっきりと示すあり方とは、どのようなものか、という問いであった。

本書に収められた戸塚悦郎さんの「和解の条件--真実とプロセス」を読んでいただければ、日本政府がいかに、自らもその一員を占める国際社会の動きから目を閉ざし、その勧告からも耳を閉ざしてきたかが、実感されるはずだ。

領土問題については、国連において野田首相が、国際機関における調停を訴えかけた。「慰安婦」問題もまた、21世紀における国際社会の常識に照らして、オープンに議論してほしい。本書はそのさい、どこから議論をスタートすべきか、その地点を見極めるための、貴重な資料を提供するであろう。

本書の構成は以下の通り。

まえがき 山下英愛

1. 開会の挨拶 志水紀代子

2. 「国民基金」をめぐる再現の政治学 鄭柚鎮

3. 関釜裁判を支援して--原告ハルモニたちとの二〇年を振り返って 花房恵美子

4. 慰安婦問題二〇年の明暗 和田春樹

5. 修復的正義--国民基金が閉ざした未来 岡野八代

6. 問題はどこにあったのか--日本の支援運動をめぐって 朴裕河

7. 和解の条件--真実とプロセス 戸塚悦郎

8. 質疑応答・全体討議

あとがき 志水紀代子

各資料

(共著者 岡野八代)








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タグ:慰安婦 / / 戦時性暴力