2013.08.27 Tue
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. 「ドイツ国民は、このような狼のために立ち向かうのです!」という言葉で終わる、1945年「ドイツ週刊ニュース」から始まる本書は、のっけから不安で暗い影でつつまれています。だけど、その一方で、主人公二人はきっとどこかで、その影から抜け出すことができるはずと、最後まで希望をもちつつ読み続けられることも確かです。
主人公は、ずっと一人暮らしでなんでもこなしてきたのに、庭の世話をしていたさいに梯子から落ちて、寝たきりになった91歳のドイツ人女性、ヴィルヘルミーネ。もう一人は、ロシアからヴィルヘルミーネを介護するためにやってきた、23歳のイェリザベータ。
ヴィルヘルミーネとイェリザベータは、初対面のさいには、互いに優しい気持ちを向けあいながら、イェリザベータのロシア語をヴィルヘルミーネが耳にするなり、ふたりの間にはどんどんと亀裂が入り始める。ヴィルヘルミーネの敵意はどこから湧きあがってくるのか、その疑問が膨らむあいだに、イェリザベータの断片的な記憶が挿入される。
イェリザベータに対して募っていくヴィルヘルミーネの敵意と、ドイツの介護事情、イェリザベータの母・祖母への断ち切れない、切ない想い。
記憶はひとを縛り、ひとは記憶に囚われ続ける。その一方で、他者の異なる記憶と出会うことで、その記憶から解放され、新しい光に満たされることもある。
本書は、そうした記憶の複雑な化学変化を、一種の記憶のミステリーといった風情で描き切っている。
松永美穂さんが翻訳される本には間違いないなと確信させられた、新しい形の「戦後」小説です。(moomin)
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