2013.09.29 Sun
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「家族野菜」という聞き慣れない言葉からどんなことを連想するでしょうか。
本書は、これまでTVや雑誌で多数紹介されてきた奈良の伝統野菜レストラン「清澄の里 粟」の三浦夫妻の活動について、初めて書籍化したもので、もともと福祉・医療の現場で働いておられたおふたりが、なぜ伝統野菜に魅せられたのか、レストランを経営するに至ったのかが描かれています。
あわせて、大和の伝統野菜についても物語やレシピを伝えながらクローズアップしています。
本来の福祉、心の豊かさとは何なのか。それを考え続けていた彼らは、ネイティブアメリカンの集落で答えを見出すことになります。そこでは長老を敬いつつ豊かな日常生活を生きる人々がおり、伝統的な食文化である「とうもろこし」の種がとても大事にされていました。
地域文化とともにある伝統野菜に可能性を見出した彼らは、日本でそれを探求し始めます。そして、奈良という土地に根を下ろし、野菜を育てること、人に伝えること、味わってもらうことに全身全霊をささげるようになります。
大和の野菜は、京野菜とは違ってあまり知られていませんが、ただ「美味しいから」という理由で家族のためにつくられてきたものです。だからこそ、彼らはつくり手の思いを大事にしています。
山里にあるレストランで提供される野菜は、彼らがつくったものだけでなく、地域の人々がつくったものも多く使われており、何気なくあった伝統食材に、地域の人自身も改めて価値を見出すきっかけになっているように思います。こうして人々が活き活き暮らせる地域というものが残っていくのではないでしょうか。
レストランに行くと、色とりどりの個性的な野菜たちに出会うことができ、愛情たっぷりに野菜のお話を聞くことができます。知らず知らずのうちに、見たことのない野菜たちに夢中になって、ゆったりした幸せな気分に満たされます。
経済成長を目指してあくせく生きるのではない、足元にある豊かさを感じることのできる力が、家族野菜にはあるようです。
(編集者 中木保代)
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