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カケダシ・ワーカーの冒険 タキコ

2013.10.25 Fri

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はじめは、流れに逆らう的な、アウトローな仕事をしてやる的なところもあったのかなと思いますが、振り返ると、自然な流れでここへたどり着いたのだと思うし、(周囲の評価は別として)天職だと感じている、私の仕事のはなし。

 じつはわたくし、こころの健康相談員、精神科ソーシャルワーカー、PSW、呼び方はなんでもいいけどそういう仕事をやっています(以下、ワーカーと書きます)。かけだしのぺーぺーですから、これから書くことは、ベテランの方には「そりゃああんた、違いまっせ」と言われるかもしれないような軽い読み物、雑感でございます。

 どういう仕事を想像されるでしょうか。簡単にいうと、こころの不調で困っているご本人(以下、クライエント)、ご家族、支援者などから相談を受けて、話をきいたり、様子を見に行ったりします。すでに受診している方は主治医に相談できるので、私どものほうには、「これって病気でしょうか」「受診した方がよいでしょうか」「家族の様子がなんか変なので心配です」といった、未受診の方からのご相談も多いかもしれません。

 この仕事の難しいところは、ご家族から話を聞くだけで、クライエントに会えないこともあること。クライエント自身に、病気であるという意識がない場合があること。病気と生きづらさを明確に切り分けがたく、医療的なケアだけでは回復が難しい場合があることなどでしょうか。

 さて、かの名探偵「シャーロック・ホームズ」が最近、英BBCにより新たに映像化されました。それを見ていて、私の仕事と似ているなあと感じることがあります。どんなところかって?いうなれば、「ケース(case)」を追うところでしょうか。ホームズは犯人の正体を暴きますが、ワーカーが相手にするのは「問題」そのもの…かな?

 クライエントが困っている。眠れない、すぐケンカしてしまう、仕事がうまくいかない、家族とうまくいかない、気持ちがふさぎこむ、周囲がみんな敵のように感じる、自分を傷つけてしまう、死にたい。など、など…

 では、「なに」によって困っているのか?病気か…なんの病気だろう。生活環境、人間関係か。金銭的な問題?性格?認知と行動のしかたがトラブルを招いている?発達の偏りか。薬物、アルコールか。アディクション?依存せざるをえない状態とは。など、など…いま表面に見えている困りごとの「原因(=犯人)」を見定めるために、成育歴を聞いたり、いろいろな質問をしたり、自宅を訪問したりと、情報を集めます。そのやりかたが、非常に「ホームズ的」だと感じるのです。…さすがに、変装や尾行はしませんよ。

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 年齢、性別、服装、所作、持ち物、自宅の様子、受け答え、などを「観察」しながら、色々な可能性を取捨選択します。そのやりかたは、ここでは詳しくお教えすることはできませんが、かの名探偵に言わせれば、

・「あらゆることを知るのが、僕の仕事でしてね。ほかの人なら見落とすようなことでも、注意して観察する訓練をつんでいるからなのでしょう」 
『花婿の正体』より

・「探偵術において最も重要なのは、数多くの事実の中から、どれが付随的な事柄でどれが重要な事柄なのかを見分ける能力です。これが出来ないと精力と注意力は浪費されるばかりで、集中させることが出来ません」『ライゲートの大地主』より

 といったところでしょうか。なんのためにどのような情報が必要か、紐付けができていないと、的確な観察や質問をすることは難しいでしょう。その情報を集めることがクライエントのためになる、と理解していないと、個人情報の目的外収集になるだけでなく、信頼関係も損ないかねません。

 また、観察や質問が重要なのは、クライエントが自身の困りごとに気付いていなかったり、言語化できていなかったりする場合があるからです。少々極端な例ですが、「死にたい」「精神科を受診しているけれど、薬が合わないように感じる」というので話を聞いていると、「実は所持金が数十円で…ここ数日まともに食べてなくて…」なんていうこともあります。経済面での不安があったり、きちんと食べていなければ、こころも不調になるのは当然なのですが、別の問題として捉えてしまっている状態です。「あれ、この人顔色が悪いな」とか、「どうやって生活してるんだろう」とこちらが気付いて質問しないと、「えッ、そうきましたか」みたいなこともあるのです。

 ちなみに、相談職の基本とされる「傾聴と共感」という部分も、原作を読んでいると、ホームズはけっこうちゃんとやっている、ような気がします。ちゃんと聞いているし、どんな荒唐無稽と思われる話でも、発話を促しながら仔細漏らさず最後まで聞くあたりとか。

 …とはいえ実際には、診断・治療するのは医師ですので、探偵は医師のほうかもしれません。ワーカーが、手足もしくは目や耳になって調べてきたことをもとに、安楽椅子探偵さながらに、医師が「犯人(=困りごとの原因)を特定」するのかも?

 …いやいや、ホームズはあくまで「コンサルタント探偵」であって、犯人を特定しても、自身で法的な裁きができるわけではありません。権力を持たず、現場を徹底的に観察し、見立てをして、方向を定める人である点は、やはりワーカーのほうが近い、と主張しておきたい!(シャーロッキアンの皆様、どうかご寛容に…。)

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 さらに、英BBC版といえば、ホームズが発達障害(自閉症スペクトラム)的に描かれているのも興味深い点です(ワトソンとレストレード警部が、「いつもと同じが安心?」「それってまるで…発達障害?」と言う場面があります)。原作では、発達障害という表現は全く出てきません。原作が発表されてから一世紀以上経っているので当たり前のように思われるでしょうが、時代が変わると疾患の概念や捉え方が変わるというのは非常におもしろいことです。ホームズというひとりの人物をめぐっても、捉え方が変わるわけです。

 (ちなみに、シャーロック・ホームズシリーズは、1887年から1927年。著者のアーサー・コナン・ドイルの没年が1930年。発達障害の歴史のはじまりといわれることの多い、レオ・カナーによる自閉症についての発表が1943年。ドイルは医師でしたが、発達障害という概念が出てくる少し前に、この世を去っているのです。)

 最近では、今まで統合失調症や人格障害などとして捉えられてきたもの一部が、実は発達障害によるものや、合併症だったのでは、という話も出てきています。この辺りにご興味のある方は、宮岡等・内山登紀夫『大人の発達障害ってそういうことだったのか』をどうぞ。(用語等が少々専門的ですので、精神疾患について既に基本的な知識をお持ちの方にお勧めします。)

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もう一つ、ホームズ語録を引きましょう。

・「概して、事件の外見が奇怪に見えれば見えるほど、その本質は単純なものだ。平凡な顔ほど見わけがつきにくいように、ありふれた特徴のない犯罪ほど、本当はやっかいなんだよ」『赤毛組合』より

 暴れたり、奇妙な行動をとる状態は、周囲の方からすると、激しく見えて驚きますが、病気の急性期の状態であって、きちんと治療すると、ほどなく落ち着くことも多いものです。

 それよりも、ふつうに暮らしているように見えるけれども死にたいという気持ちを抱えていたり、病気は軽快したけど生きる意味を見失っていたりするほうが、「本当はやっかい」だと感じることがあります。あくまで、薬は病気を治療する助けであって、生きる意味や望ましい生き方を与えてくれるものではないからです。

このあたりの話は、

浦河べてるの家『べてるの家の「非」援助論』をはじめとする、べてるの家の本や、

上岡陽江+大嶋栄子『その後の不自由 「嵐」のあとを生きる人たち』

など、病気の治療「だけじゃない」、生きるということをどう考えるのか、丁寧に書かれた本たちが心強いです。

最後に、カケダシとはいえ、それなりに多くの方の人生に触れてきて…

・「ねえきみ、人生というものは、人間の頭ではとても考えられないほど、ぜったいに不思議なものだね」 


 『花婿の正体』より

 この仕事、どれだけ勉強しても経験を積んでも、わかりきることはきっとないんだろうと思います。でも、それがおもしろい。人生の不思議のおもしろさは、ホームズが世界中で読み継がれていることからも、確かなことなのでしょう。








カテゴリー:リレー・エッセイ

タグ: / 相談事業 / ソーシャルワーカー / 発達障害