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当事者のリアルを追体験する タキコ
2014.04.18 Fri
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とくに、そのような作品で語られる渦中の人間は主に「女」だ。女について周囲の人間がさまざまに語り、女自身がからめとられるさまが描かれ、またはミステリアスな外れ値として描かれる。もちろん、そうした「女の扱われ方」を批判した作品ではあるが、フィクションでまで、そういう「女の扱われ方」を見せつけられること自体が、私にとっては「もうたくさん」なのだ。
また、精神科ケースワーカーという仕事柄、人の人生に外側から関わることがどうにも多くなってしまう。当事者をとりまく人々の複数の視点から、一人の人間を理解しようとする。かゆい所に手が届かないような、そういう「ワーク」に、フィクションでまで囚われたくないのかもしれない。ほんとうは、当事者の気持ちが最も重要なのだ。私自身、当事者の気持ちを聞きたいと考えているけれども、これまで周囲に聞く耳を持たれなかったことで、語る言葉を失ってしまった人も多い。そんな人びとを理解する助けとなるのが、表現力豊かな「当事者」によって書かれた本である。
山口かこによる『娘が発達障害と診断されて…母親やめてもいいですか』は、コミックエッセイだ。障害児の母親というと、頑張って障害児を育て、さまざまな困難を乗り越え…というポジティブなエピソードが取り上げられる事が多いが、この作品は少し違う。なにかがおかしいと思いながらも希望を捨てきれずに育児を続け、発達障害と診断されてからは障害児療育に奔走して疲弊し、インターネットに振り回され、離婚し、子どもを手放し…。およそポジティブとはほど遠いが、それだけに、(前々回の堀さんの言葉を借りれば)まさに「『圧倒的なリアル』の前で言葉を失う」のだ。合間に、発達障害の権威である杉山登志郎医師による解説も挟まれており、実体験と専門家の解説の両方が読めるお得な一冊でもある。
末井昭『自殺』。こちらは自殺にまつわるやさしいエッセイだ。末井昭は「伝説の編集者」らしいが、私はそのあたりのことは知らない。炭坑の村に生まれ、母親が隣家の若い男とダイナマイトで心中をした。そのことを抱えてきたおじさんなのだと思う。著者自身がその体験を持て余してきたように、自殺は忌避されがちな話題だ。著者の、自殺という話題に寄り添い、「自殺について考えたって、話したっていいんだよ。」と受け止めてくれるようなやさしさが、「自殺したい気持ちを抱えてたって、生きていたっていいんだよ。」とやさしく語りかけてくれる。自殺の話をずっとしてるのに、ほっこりする。そんな不思議な魅力に満ちている。
漫画家・吾妻ひでおの『失踪日記』『失踪日記2 アル中病棟』の魅力については、昨年、すでに鳥集さんが言及されているが、アルコール依存、いわゆる「アル中」とその治療に関しては、ケースワーカーとして 「あるある」と頷きながら。並行して当事者の視点で、症状や治療についてその時どう感じていたかということが追体験できるそのバランスが、たいへんおもしろい。
当事者によって書かれた本は、最近はさまざまな分野でたくさん出ているので紹介しきれないが、人ひとりの体験というのは、それだけですごいものだ。同じような体験をした(とされる)人の間でも、感じ方やその後の人生は異なるだろうし、本に描かれた「当事者の体験談」が全てではないとは思う。当事者以外には到底理解し得ないこともあるだろう。しかしながら、ひとりの人の「体験」について知るということは、私にとってたいへん魅力的な「追体験」である。このおもしろさは、当分手放せそうにない。
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