2014.07.11 Fri
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.12月11日大阪府豊中市にある、とよなか男女共同参画推進センター、すてっぷで開催された「中国・桂林の「慰安婦」被害者 韋紹蘭(ウェイ・シャオラン)さんを迎えて」に参加した。小さな会場ながら、開始時間ぎりぎりに到着したわたしは、予備のイスをお願いしなければならないほど、すでに多くの人が証言集会の開始を待っていた。
桂林は、敗戦末期の日本軍が、陸軍最大の「大陸打通作戦」を展開するなかで、住民虐殺と略奪、女性の拉致・監禁が敗戦直後まで横行した地域であったという。韋さんは、1944年11月、日本軍がやってくるという知らせを聞いて、山合いの洞窟に隠れていたところ、日本兵によって拉致され3ヶ月間ほど慰安所に監禁された。
韋さんの証言は、2007年6月『週刊金曜日』取材班が当時の被害者を訪ね取材するなかで、ようやく聞きとられることになった。韋さんの証言に先立ち、当時取材に同行したジャーナリスト朱弘(ジュ・ホン)さんから、スライドで、取材当時の桂林の様子や、韋さんたちと当時の慰安所となっていた場所を訪れた時の様子など、説明がなされた。
韋さんは今回、本特集(4)の徐さんからの報告にもあるように、慰安所に監禁され性的被害を受けていた3か月の間に妊娠してその後出産した、羅善学(ルオ・シャンシュエ)さんとともに、証言をするために日本に来てくださった。主催者からの質問に応える形でなされた証言を聞いていたわたしにとって、日本兵に捕えられ、3ヶ月間慰安所に監禁されていた時の韋さんの被害の重さも想像を絶するものがあるのは当然なのだが、むしろ、韋さんの重い証言にずしんとした重みを与えているのは、その後、羅さんとともにすごしてきたこの65年という、年月の長さである。
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.北京語を母語としない韋さん・羅さん親子には、韋さんの娘の夫である武(ウ)さんによる北京語による通訳がつき、そして武さんの北京語を日本語に通訳するという迂回を経るため、じっさいに韋さん、羅さんの直接の証言は、お二人合わせても短いものであった。にもかかわらず、通訳を待ちきれずに語ろうとするお二人の言葉を聞き、通訳をじっと待たれている時の様子をみながら、「慰安婦」問題をあたかも〈過去〉のものとして語ろう、忘れようとする日本社会の傲慢さ、閉鎖性、想像力のなさに胸をえぐられる気持ちになった。
とりわけ、1990年代以降、とくに時間的な制約(=時効)や国境線で正義への問いを閉ざしてしまうような国家中心主義的な正義論や法体系の在り方がグローバルな規模で問い返される一方で、金富子さんが編集された『歴史と責任』の「はじめに--「慰安婦」問題と一九九〇年代」で鋭く批判するように、少なくない政治家たちは、たとえば日本軍の関与を政府が認めた「河野洋平内閣官房長官談話」(1993年)の修正や撤回を求めて活動し、さまざまな政治的圧力をかけ、そして2006年には、中学校歴史教科書から「慰安婦」について記述が一斉に消されたりしている状況にわたしたちは生きているのだ。
日本兵の子どもとして、父親や他の兄姉からも冷たい扱いを受けたと語る、羅さんの経験や存在を、わたしは今、自分の言葉で表現することができない。かれは、日々の生活のなかで、つねに周囲の人たちから自分の出自を問われ、母が受けた加害の傷を自らのなかにも感じ続けてきたのだ。そして、たとえば父親から受ける冷たい仕打ちにも、〈自分の出自を知ってからは口答えしないようにしてきた〉、と語られた。それは、〈母が辛くなるから〉だと。かれは、自分に辛くあたった父親に対して今では、〈自分をそれでも育ててくれたのだから、人の道からはずれたことはしていないと思う〉ともおっしゃられた。
日本人に対して伝えたいことを羅さんは、〈嘘だとか、なぜいえるのか。わたしがここにいること、身体でもって証言している〉と強く訴えられた。そして、〈日本政府は自分にも母にも謝れ、一言も詫びがない〉、と。
わたしは、被害者の方が一人一人異なる生を歩んでいること、一度負った加害が、そのひとの生の現在に影響を与え続けつてしまうほどの重みをもっていることを、全く想像も理解もしようとしない〈なんど謝ったら、気が済むのか〉といった、発言を日本社会において幾度も耳にする。
今回改めて証言を聞き、日本軍が犯した加害を、被害国である中国で生きざるを得ない人たちの現在について、さらに考えを及ぼさないといけないことを思い知らされた。日本軍性奴隷制が被害者個人の生そのものにどれほどの傷を与えたのか。世代を越えて、この問題は現在の問題としてわたしたちの社会を問うているのだと、韋さん・羅さん親子の証言によって知らしめられた思いである。