2014.09.28 Sun
誰とどうやって知り合い、どのように結ばれるか。これはきわめて個人的な問題であると同時に、それぞれの社会のありかたに深くかかわる問題でもあります。『アジ研ワールド・トレンド』「特集 途上国の出会いと結婚」(2014年8月号)の特集ではアジアから中東、アフリカ、ラテンアメリカまで、世界各国のさまざまな結婚事情を紹介しました。
日本で進行する非婚化の一因として、若年層の就職難や非正規雇用の増大が指摘されていますが、経済的理由による結婚難は本特集が扱っている国々においてより深刻です。結婚相手への贈り物、婚資や持参金、挙式、住居をはじめとする新婚生活のための費用負担が、そうした慣習を重視する社会においてより重くのしかかるからです。
また、働き口がなく外国に出稼ぎにいく若年男性が増えると、女性が国内でパートナーを見つけることが難しくなります。女性の場合は、より生活水準の高い国の男性と結婚することで貧困から脱出するという道もありますが、実際には嫁ぎ先で生活が楽になるとは限りません。女性が外国に(外国から)嫁ぐ結婚移民と、それを促す国際結婚仲介ビジネスの興隆は、いまや日本を含めた世界各国に共通する現象でもあります。
酒井順子氏の『負け犬の遠吠え』(講談社)が注目を集めたのは十年ほどまえのことですが、都会でバリバリ仕事をし、なかなか結婚しない女性というのは、「伝統的」と目される社会にも存在するようです。母親世代が経験したような嫁・妻としての苦労をしたくないというのも、結婚を先延ばしにする理由の一つ。また、一般に女性は収入や学歴がより高い相手と結ばれることが望ましいとされるため、学業やキャリアを優先すればするほどふさわしい相手を探すのが難しくなってしまうのも、多くの社会に共通しています。
一夫多妻や若年婚、気に入った女性を連れ去る誘拐婚(最近、フォトジャーナリスト林典子さんの作品により、キルギス共和国の誘拐婚が注目されました)など、女性の意思および権利の尊重という観点からしばしば問題視される慣習もあります。しかし本特集でも触れられているとおり、こうした慣習はそれぞれの社会においては一定の合理性を持っていたり、当事者である女性自身が戦略的に使っていたりする場合もあるのです(誘拐婚についてはカザフスタンの事例を参照)。
読者は異国の慣習について新しい発見をする一方で、言葉もライフスタイルも異なる人々が日本に住むわれわれと同じような問題を抱えていることに、親近感を持つかもしれません。世界各国の女性たちの悩みやしたたかさに思いをはせながら、気軽に読んでいただければ幸いです。(特集企画担当・岡奈津子)
<特集目次>
巻頭エッセイ 変わりゆく社会のなかの結婚 / 押川文子
特集にあたって / 岡 奈津子
結婚にみる韓国社会の変化 / 春木育美
「剰女」の言い分と現代中国の結婚難 / 山口真美
台湾結婚事情 / 横田祥子
バリ島農村の結婚事情 / 中谷文美
インド・ケーララの結婚-結婚慣習の変化と現在 / 小林磨理恵
パキスタンにおける結婚慣習-インドとイスラームの折衷 / 牧野百恵
カザフスタン村落部における恋愛結婚の諸相 / 藤本透子
イスタンブルの駆け落ち事情 / 村上 薫
恋愛結婚が許されないサウジアラビアの出会いと結婚 / 辻上奈美江
エジプト-二つの「婚活」物語にみる現代の結婚難 / 後藤絵美
アンダの花嫁-コモロにおける女性と結婚 / 花渕馨也
現代メキシコの若者たちの結婚と恋愛 / 松久玲子
若年婚-その背景と開発経済学 / 工藤友哉
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