2009.08.06 Thu
「働く女性のカフェ:5月17日(東海ジェンダー研究所主催)」でワーキングウーマンが企画を担当し、遠藤公嗣さん(明治大学経営学部教授)にお話しをうかがいました。講演の内容と質疑応答をお伝えします。
女の賃金が安い理由
大きく言って二つあります。 ①は主として経営側理由です。
雇用する側が、正規雇用と非正規雇用という雇用身分(雇用区分)によって労働者の処遇条件を変える“労務管理”をしているから。
この“雇用身分”のもっとも大きな違いは賃金の支払い方です。正規雇用は属性基準賃金(年功給・職能給で月給)で、長期に勤続し昇進もあります。それに対し非正規雇用では職務基準賃金(時間単位給で時給・日給・月給)で、短期勤務を前提としており、昇進もしません。
②は社会の意識などで、主として働く側の理由と言えるものです。
「性別役割分業」意識を元にした「男性稼ぎ主義家族」という考え方が日本では強いから。
つまり、男が働き家族を経済的に支えるという図式です。したがって女性が働くのはその補完と考えられます。
この①、②の理由が合成され、
・女性は長期勤務をしない、したがって職業訓練機会を与えない⇒昇進しない。
・いったん離職して働くことが多いので、非正規雇用になることが多い。
という図式ができあがります。
そうして、正規雇用者と非正規雇用者との賃金差別が男と女の賃金差別に反映されるわけです。
上記の状況は、根強く残っている一面もありますが、現在では経済や世界情勢の変化などから揺らいできています。しかしその変化に対し、労使双方とも「大きな括りは変えない」ことで対応しようとしています。
経営者側 : 正規雇用、非正規雇用の区分は堅持したまま、非正規雇用の拡大で対処。結果「周辺的正社員」「名ばかり正社員」が増加。
労働者側 : 正規雇用者を中心とする労働組合は、正規雇用の利点のみを評価し、これを守ろうとしている。現在の労働の形態が性別役割分業を前提としている点、非正規雇用があっての正規雇用という点を軽視しているが、これはかえって正規雇用者の状況を悪くすることにも繋がるという認識に欠けている。
状況打破のために目指すべき道は
【正規雇用・非正規雇用の区別をなくし、均等待遇を目指す】 これしかありません。
●賃金形態の区別をなくし、統一する
賃金形態は大きく分けると『属性基準賃金』(年功給や職能給)、『職務基準賃金』(職務価値給や職務成果給)になりますが、日本の企業で多く採用されている『属性基準賃金』は世界では極めて少数。欧米では『職務基準賃金』が中心で、中でも職務価値給が多数です。正規・非正規という雇用区分も、日本にいると当たり前のように思いますが、この区分処遇も、欧米ではほとんど行われていない労務慣習です。
●「範囲レート職務給」を実施する
「範囲レート職務給」とは、職務価値給のうちの「職務給」の一つで、職務分析・職務評価を行って職務価値点(職務労働の値段)を決め、賃金額に換算するものです。もちろん職務分析・職務評価はジェンダーを含むあらゆるバイアスを排除して行うことが基本です。それはすなわち同一価値労働同一賃金の原則に基づく職務給、ということです。
●同一価値労働同一賃金は正規・非正規、ひいては男女賃金差別是正の有力な武器になる。
もともと同一価値労働同一賃金に基づく職務給という考えは、欧米で女性差別賃金の是正のための道具として始まったものが、あらゆる不当な賃金差別是正の道具として発達したものです。この同一価値労働同一賃金に基づく職務給は現在、ILOも推奨する国際基準でもあります。
正規・非正規雇用の大きな格差賃金が、そのまま男女間の賃金差別にも結びついている日本では、同一価値労働同一賃金に基づく職務給で賃金を考えていくことが、雇用区分による賃金の格差是正の大きな力となっていくでしょう。
≪質疑応答≫ 主なものをまとめました
Q. 同一労働同一賃金と、同一価値労働同一賃金の違いは?
A. 職務に賃金が付いていて、働く人にその賃金を払うという点では同じ。ただ、それでは男女間の賃金格差はなくならない。なぜなら男女間で就いている仕事に違いが多いということと、女性が多く就いている仕事が低く評価されているからです。同一労働同一賃金がいくら守られても、男女間の格差は解消されません。そこで登場したのが、職務が異なっていても同じ価値の労働に対しては同じ賃金を支払うという同一価値労働同一賃金という考え方です。そのためには、綿密な職務分析・職務評価が必要。日本でも職務分析を請け負っている会社があります。
Q. 使用者側(日経連)は職務給を導入しようと考えているのか
A. 日経連はどういう方向に進むかまとまっておらずふらついているが、職務給に行かなければとは考えているようだ。キャノンなどは独自の「職務給」の方向に行っており、これを日経連も無視できない。企業では労務管理の一つとして職務分析・評価をやっているところがある。
Q.日本では類似労働の場合に職務評価をしても、パートと正社員という身分の違いで同一価値労働同一賃金を当てはめるのは無理がある。また、罰則規定なども全くないので使えない。自分たちで職務分析・評価をして団体交渉をしても、会社側は「法律があるのか」と相手にしない。厚労省などで一定の法律を制定することはできないのだろうか
A. 世界の中でも政府として出している国はないし、出せない。職務を何にするかは企業によって違うので、厳密にやるには各企業内でやるしかないだろう。ファクターの数値は労使間の合意がなければやれないのではないか。労働者側が自分たちのやり方でやって差を示すことはできるのでは。そんなものは・・・と言われたら、企業側でもやってみれば、と言ってみる。
Q. 今後、賃金格差是正の力となるものは
A. 既成の労働組合ではなく、いわゆるカタカナ労組(ユニオン)から変わっていくと考えている。属性基準賃金で正社員を守る労働組合が何百万人いても、現在の賃金格差の是正には実質的な力にはならない。カタカナユニオンは現在、数では3万人位しかいないが、社会的影響力は強く、連合より影響力はあるのではないか。パートタイマー均等待遇もたった3万人で作らせた。実質が伴わないといっても、建前をつくるのは大切。建前(概念)ができれば、中味を詰めていくことができる。均等法ができた時も中身は空っぽだったが、見直しで少しずつ変えていくことができている。パートの均等待遇も3年後には見直しさせることができるので、建前だけでも作ることは大切だ。
現在の企業組合はスト資金として莫大な金を溜め込んでいる。およそ1兆8000億円あるといわれている。実にもったいない。その1%でもいいからカタカナユニオンにばら撒いて欲しいと思っている。〈文責 伊藤〉
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