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性に中立な職務評価の実施国の実例に学ぶ-男女賃金差別を解消するために

2010.04.10 Sat

「第4回働く女性のカフェ:2010年2月21日(東海ジェンダー研究所主催)」でワーキングウーマンが企画を担当し、居城 舜子さん(前常葉学園大学 現女性労働問題研究会代表)にお話しをうかがいました。質疑も活発で、講演後も「何度説明を受けてもよくわからない感のあった同一価値労働・同一賃金について成立過程から説明していただき、おもしろかった」などの感想が寄せられ、熱意ある勉強会となりました。講演の内容と質疑応答をお伝えします。 では、居城さんのお話の順に沿ってご紹介していきます。
 はじめに、ワーキングプア(働く貧困層)が登場した現在の社会状況を説明され、働く女性の多くがワーキングプアであり、貧困の問題が女性問題でもあるとの認識を示された。

 次に、2009年10月20日に最高裁が上告を棄却し、高裁判決が確定した総合商社「兼松」判決の男女平等賃金にとっての意義についてかなりの時間をとって説明された。それまで、労働基準法第4条の「男女同一賃金原則」は職掌別(=コース別)や、雇用形態を超えては適用されてこなかった。また、雇用機会均等法の募集、採用、配置、昇進差別は、罰則規定がなく裁判では有効ではないものであった。高裁判決は、一般職(事務職)と総合職(営業職)との職務分析及び職務評価を克明に行ったことを認めざるを得なかった。その結果、一般職に転勤がなくても総合職と職務における「同質性」を認め、両職間の賃金格差に合理性なし、と判断し、労働基準法第4条(男女同一賃金を定める)違反であるとして、一審判決を乗り越えるのもであった。この高裁判決確定により、今後は「コース別」賃金の違法性が争えることと、雇用形態差別を克服する「パートタイム労働法」改正への可能性を開いた、ということが言える。

 さて、ここでいう職務評価とは、「同一価値労働・同一賃金」を適用する時に用いる手段であり、「同一労働同一賃金」の延長上にある男女平等賃金要求の考え方(方法)である。
女性は男性と異なった職業(看護師とトラック運転手)・職務(事務職と営業職)に就労する場合が多い。また、女性と男性は異なった雇用形態(パート労働と正規職員)に就く。こうした実情が、男女間に大きな賃金格差・差別を生じさせている。このような事例に対し、同一労働同一賃金原則だけでは賃金格差を是正することはできない。これらの克服のためには、
1)女性を男性と同じ様な職業・職務に就かせる。→ポジティブ・アクション
2)異種労働であっても公正な賃金を適用する。→「同一価値労働・同一賃金原則」を適用する。=ペイ・エクイティ戦略とも言う。
この2つの方法をおしすすめる必要がある、と居城さんは強調された。

 さて「職務評価」とは、そもそもILO100号条約(日本は1967年に批准)にも定められている、男女間賃金差別解消のための戦略=「同一価値労働・同一賃金原則」を実現するためのほぼ唯一の方法である。この方法を用いると、例えばトラックの運転手と看護師の仕事を、同一の価値と認められれば同一の賃金を適用することができる。すでに多くの既存の職務評価があるが、ジェンダーバイヤスがかかっており、男性管理職に有利にできている。「性に中立的な職務評価」を行うには、女性職(60~70%を女性が就労する職業)の仕事の内容やスキルの見直しをはかる作業をする。例えば、既存の職務評価では、部下をたくさん抱えた管理職はコミニュケーション能力も責任能力も高いとみなされ価値(点数)が高くなる。さまざまな症状の患者さんに接していて、部下を抱えていない看護師の価値(点数)は低い。「性に中立的は職務評価」では、職場の実態に即して、こうした看護師のコミニュケーション力に高い評価を与えるような設計にしている。したがって、「職務評価」は旧来の職務の序列を見直す=変えるという意味を有しているのである。

 各国では広範囲に「同一価値労働・同一賃金」がすでに導入されている。例えば早かったのはカナダケベック州(1975年)、アメリカミネソタ州(1983年)、イギリス(1983年)、EUでは90年代から立法化されており、2002年段階で全EU加盟国のすべてで立法化されている。ことに1980年代以降、これらの国々の熱意ある女性たちにより「性に中立的な職務評価」の経験が積み重ねられてきたのである。

 具体的な事例として以下の4つの職務評価表がパワーポイントで示された。
 例えば、カナダオンタリオ看護師組合の「ジェンダーに中立的な職務評価システム」(1994年)では、技能の項目の中に、4コミュニケーションスキル 5人間関係スキル 6身体的スキル といったサブファクターが組み込まれていたり、努力項目の中に、肉体的負荷のほかに患者への感情的な対応力を示す 10感情的負荷 といったサブファクターがくみこまれている。イギリスの地方自治体の職務評価(1997年)では知識・技能ファクターの中に女性職に多い手先の器用さを示す「身体的スキル」が入ったり、努力ファクターの中に肉体的負荷のほかに感情的負荷が入り、この負荷のウェイトが高くなるといった特徴がある。その後のイギリスの公的医療サービス部門の職務評価(2004年)、ニュージーランドの公共部門の職務評価(2006年)においてもコミニュケーションスキル、人間関係スキルなどが再定義され、また身体的スキル、感情的負荷などが組み込まれていることが紹介された。ここで重要なのは、どういった内容の評価ファクターを、どの程度の点数に設定するか、である。誰かが恣意的にやるというものではなく、使用者側、労働者側、研究者、地域の知識人などが参加して職場の実態調査や観察などの分析をしたうえでファクター・レベル(点数)をどうしたらいいのか、を決めるのでおよそ妥当な線が出てくる。一般に、評価ファクターが少ないとバイヤスがかかりやすく、多いほど多面的に評価され、公正さが保たれる。

 兼松の裁判でもこのような欧米の職務評価の研究成果を組み込んでいる。例えば、知識・技能ファクターの中のbの対人折衝や、責任ファクターのfの業務遂行・判断・処理責任などがそれである。これらのサブファクターを組み込んだことや、その点数配分が少なくないことなどが、事務職の評価を高める結果になっている。その結果、兼松の原告の木村敦子さんの職務評価では、比較対象者S氏を100とした時、木村さんは95となり、S氏100の賃金に対し、95の割合での賃金を要求したのである。この時の木村さんの実際の賃金は27歳男性の賃金を上回らない金額であった。判決は、この職務評価の結果のすべてを認めたわけではないが、全く無視することもできず、“30歳位の男性賃金に合わせる”こととなった。勝ち取った金額としては多くはないものの、裁判で判決の根拠に「職務評価」が実際に使われたことの意味は大きく、「性に中立な職務評価」の現実的な実例となった。

「職務評価」を実際に行うには①既存の職務評価を使う、②外部に依頼する、③自前で行う、などの方法がある。どれも一長一短である。①は簡単であるが、本当に職場の実態に合致しているのか、という問題がある。②は専門的であるが、ジェンダー中立的か、そして多額の費用と時間がかかる、という問題がある。③は、職場の実態に即している職務評価として正しいか、という問題がある。現在、日本でもいくつかの事例が登場している。例えば、看護師、介護士、ホームヘルパー、小売サービス、一般事務(兼松)などがあるが、まだ少ない。今、ILOやEU加盟各国は、「性に中立的な職務評価」のガイドブックを刊行している。それにもとづいて実施することを奨励している。これらを紹介する計画があるので、日本でもこれにもとづいて実践することができるようになる。

 今後の課題としては、ILOからの勧告、女子差別撤廃委員会からの勧告、OECDの対日経済審査報告などがあるので、兼松判決を今後に生かす方法としては①労基法4条の内容を明確化(同一価値労働の明記)、パートタイム労働法の改正(雇用形態が異なっても同一賃金や同一価値賃金を認めさせる)などが考えられる、と述べられた。

 また、労働市場、社会保障制度の面からは ①年功賃金制度の再検討 ②男女・雇用形態を越えての均等待遇 ③失業保障を手厚く、職業訓練制度の充実 ④最低賃金制度の引き上げ ⑤世帯単位から個人単位への社会保障 ⑥生活保護費「貧困線」の検討 などの総合的な再検討をする中で、男女平等賃金なども検討されねばならないと指摘された。

 最後に、質問への回答から印象に残った点をいくつか紹介しよう。
1.職務評価による同一価値労働・同一賃金要求は、労組の裁量(賃上げ要求)を制約していくことになり、歴史的に労組は嫌がる傾向にある。 
→世帯単位の賃金は上がる、と説得していく。長期的には対立は解消される。

2.職務給(職務に対する賃金)での賃金の差は5段階くらい。年功序列ほど差は出ない。

3.第2次世界大戦後、国連、女性の地位委員会が同一労働・同一賃金の概念を明確化。それが、戦後、同一価値労働へと広がっていった。女性が、運動の中で勝ち取ってきた側面と同時に、女性を活用していくことが有利という雇用戦略上の要請からでもあり、戦略的な妥協の産物である。

4.現在、日本は伝統的な家族が崩壊 
→ 世帯主賃金=家族賃金は崩れる時期、正念場にきている。各国の事例からみるとそうした場面で同一価値労働同一賃金が社会的に広がっている。

カテゴリー:ワーキングウーマン / 均等待遇アクション21京都