2010.09.03 Fri
セクハラの個々のケースに誠実に対応したとしても、それは根を残したまま草取りをするようなもの。根を見定め根こそぎ抜かないと、後 からまた生えてくるだけ—こんなわかりやすい例えから角田由紀子弁護士のお話は始まりました。
酷暑のなか行われたキャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク第16回全国集会(8月28日椙山女学園大学)は、午前中に角田さんの講演「キャンパス・セクシュアル・ハラスメントと大学の責任」 のほか、「学生支援とハラスメント」「相談員研修」の三つの分科会、午後に「セクシュアル・ハラスメントとキャンパスの中の人権」と 題したシンポジウムという盛沢山の構成でした。いずれの部会・シンポも充実しており、100名あまりの参加者で熱心な議論が行われま したが、ここでは、角田さんの分科会を中心に報告します。
角田さんは、よく知られているように、この20年余り、弁護士として日本のセクハラ裁判を力 強く引っ張ってこられた方。ここ数年は、明治大学ロースクール教授として大学の事情に内部からかかわっておられます。その お話は大学の現実を鋭くつき、全国ネットの活動のあり方にも再考を促すものでした。
95年の京大矢野事件以来、注目されるようになったキャンパスセクハラ。全国ネットワークが97年に創設されたのは、セク ハラ問題に取り組もうとしない大学に業を煮やしてのことでもありましたが、99年の改正男女雇用機会均等法にセクハラ防止が盛り込ま れて以来、事情はだいぶ変わってきました。当初は形式的・表面的だった大学の取り組みも、徐々にガイドラインや対応のため の規則が制定され、手続き面での整備は一定程度行われました(中には、いまだにセクハラなんて存在しないと言わんばかりの「原始時 代」にとどまっている大学もありますが)。事件が起これば、調査委員会が立ち上がり、それなりに誠実に対処が行われ、ハ ラッサーに処分が下されることも珍しくありません。角田さんによると、大学の調査報告書は、企業のものよりも精緻でよくできているこ とが多いとのこと(もちろん、例外は山ほどあるでしょうが)。
しかし、個別のケースへの対応にとどまらない、再発防止のための努力はこれまであまりに不十分だったのではないかと角田さんは問題提 起します。担当者は、誠実に取り組んでいるのだが、ケースの対応が終わったところで疲れ果て、なぜそうしたセクハラが起 こったのか、検証を経てその後の防止に役立てることが一切できていないのが現状です。それでは、根っこを残したままの草取りのよう に、またすぐに再発する(同一人物が繰り返すことも往々にしてある)。諸事例の検証により、大学でセクハラが起こる構造的 問題に分析のメスを入れてこそ、有効な防止策が立てられるはず。これまで大学には、その視点が欠けていたという角田さんの指摘はその 通りで、全国ネットにも、その視点が不十分であったと反省させられました。
大学にしっかりと検証の作業をやらせるのは、簡単なことではないでしょう。文科省からの圧力が必須でしょうし、そのためには、全 国ネットとして、文科省や国会議員への働きかけを行う必要があるでしょう。それも簡単ではないですが、個別のケースにかけ て消耗しているエネルギーを思えば、そのほうがずっと生産的なことは間違いないはずです。
カテゴリー:キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク
タグ:DV・性暴力・ハラスメント / 牟田和恵 / アカデミック・ハラスメント
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