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映画『女性と孤児と虎』を見る――慰安婦・米軍基地村・国際養子縁組 岡野八代
2011.04.29 Fri
4月28日、小雨の降る中、京都の立命館大学にて上映された『女性と孤児と虎』を見にでかけた(本映画について詳しくは、http://womanorphantiger.blog55.fc2.com/)。
今回は、2010年に完成された本作品の日本初上映ということもあり、上映後、監督のジェーン・ジン・カイスンさんと共同制作者のガストン・ソンディン・クラウスナーさんのトークと、会場との質疑応答まで用意された、充実した会であった。
72分の作品のなかに、日本による植民地以降の朝鮮半島、もっと具体的には1930年代から始まる日本軍「慰安所」が朝鮮人たちに刻み込んだ歴史から、植民地解放後のアメリカ軍による「占領」、そして、朝鮮戦争、80年代以降、韓国オリンピックを契機とした驚くような経済発展といった背景がちりばめられている。そして、政治的経済的、なによりも軍事的な朝鮮半島の歴史のなかで構造的にかつ暴力的に作り出された、慰安婦制度や、セックス・ワーカーを必然化する米軍基地村、そして、1950年代に始まったという、韓国からの欧米社会に向けられた養子斡旋制度に焦点が当てられる。
中心となるのは、戦後、欧米に養子として送られてしまった韓国人の子どもたちが成長後、自らの系譜をたどるなかで、どうしても直面せざるを得ない、朝鮮半島の過去と現在に深く埋め込まれた、軍事体制がもたらす女性たちへの歴史的な傷である。
本映画には、朝鮮半島の歴史、現在のグローバル化のなかでともすれば見過ごされがちな歴史的なトラウマ、そして、もっと普遍的に軍事と経済と女性性との関係性など、考えさせられるテーマが多くある。見る者の立場によっても、そのテーマは異なって見えるであろう。
決して長いとはいえない映画のなかに、よくここまでさまざまなテーマを取り入れ、それでもなお、一本の映画として成立させているなあ、と驚嘆してしまった。だが、監督自身が、韓国からデンマークへの養子であり、この映画に、自らが長年抱えてきた葛藤を表現したからこそ、こうして、さまざまなテーマが織り込まれながらもなお、一つの作品へと結実していったのだろう。
映画に登場し、自らを語る女性たちの声は、本当に様々な自らの経験を語っているのだが、その語りは、あたかも一冊の哲学書を読んでいるかのような喚起力があった。映画の間、その言葉の、難解でありながらも深く訴えってくる力に圧倒されていたが、上映後に、その中のいくつかは、ジェーン・チョン・トレンカさんという詩人の書いたテクスト『束の間の幻影』からの抜粋なのだと分かった。本作品のもつ、言葉がもつ力も、作品に収められている映像に引けを取らないどころか、それを上回っているように、わたしは感じた。
東京では、4月30日お茶の水女子大学に公開されるという(http://www/igs.ocha.ac.jp)。
今後も多くの方が、本映画を見る機会を作られていくことを心から願っている。
上映に関する問い合わせは、『女と孤児と虎』日本上映実行委員会 (E-mail: womanorphantigar@gmail.com)まで。
岡野八代
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