2012.03.20 Tue
「個人情報保護法は何をもたらしたか―そのメリットとデメリット」について勉強会を致しました。講師は弁護士の尾藤廣喜氏です。お役所や病院や様々な場面で「個人情報保護法によって教えられない」とよく聞くのですが、この法律を詳しく読めば、過剰反応している場合や、それを盾に使って情報開示を断っている場合も多いことが判りました。(2011年12月例会報告;中西豊子)_______________________________________
1.個人情報保護法とは
コンピューターの発達で、急速な情報社会が到来し、個人の情報(病歴・思想等々)が漏れ出す危険性も飛躍的に高くなった。しかし法律、憲法にもプライバシーの保護、権利に触れたものはなかったので、この法律が平成15年5月に施行された。その後「日常生活が不便になった」と感じる人が多くなっている〈内閣府〉。緊急連絡網や同窓会名簿も作れないと思い込んでいる人も多い。行政機関の姿勢によって、以前開示していたものを、この法律を盾に開示しなくなったケースなどがある。
この法律は、個人の権利利益を保護するのが目的であって、個人情報の適正な取り扱いに関しての基本的な理念、国と地方公共団体の責任を明らかにし、個人情報を取り扱う事業者の守るべき義務を定めている。ただ非常に抽象的に書かれているため、その範囲があいまいで過剰反応が起きる原因になっている。
第十五条(利用目的の特定)で、事業者に対して情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的を特定し、これを明記することとある。例えば病院に行き、受付で記入した個人情報を、診療以外に使用するときは本人の同意を得なければならない。第十六条では、利用目的を制限しているが、本人の同意を得なくてもよい例外をこの「十六条の三項」に定めている。
例外の一つ目は法令に基づく場合(三項一号)。人の生命、身体又は財産の保護に必要で本人に同意を求めることができない場合(三項二号)。公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のため必要なとき(三項三号)。国や公共団体の委託を受けた者が事務を遂行するのに協力が必要であり、本人の同意を得ることで遂行に支障があるとき。例として民生委員が援助しようとしたとき本人の協力が得られず支障がでる場合などはこの条文で遂行できる(三項四号)。以上の十六条三項に定めていることは非常に重要で、ケースによって柔軟な対応ができるのだ。第二十三条(第三者提供の制限)にある個人情報取扱事業者は「次の場合を除いて」あらかじめ本人の同意なしで個人データを提供してはならない。この「次の場合を除いて」の条件は第十六条の三項と同じであるが、この例外規定の理解が浸透していないことが問題で、「個人情報保護法があるから一切お知らせできません。絶対ダメです」という過剰反応が非常に多い。
国もこれに困り、担当者が過剰反応の解消のために各地で個人情報保護法の説明会を開き「過剰反応は困る」と言っているというが、説明会のことさえ知らない担当者が多いという。
第二十五条には本人から個人データの開示を求められたときは開示しなければならないとある。自分の情報は自分の持ちものだからコントロールする権利がある。そして訂正の申し立てができるのだ。五十六条以下には罰則の規定があるが、いくつかの段階を踏まないと処罰の対象にならない。悪質な乱用をする業者が刑事罰には至らないという問題がある。
2. 個人情報保護法のメリット
以前、個人情報は野放し状態でどんな情報が流れているかわからない、またその訂正も求められない状況だったが、個人情報が大切でありその保護が必要だという認識が広がったことである。訂正の申し立てもできるようになった。
3. 個人情報保護法のデメリット
この法律は「理念」だけであることから、具体的な事柄の適用が難しく、不十分な点が多い。条文は抽象的に書かれるが、実態は具体的な形で起こるので、過剰反応を起こす。また条文の解釈も一つではないのが混乱を起こさせている。
過剰反応の例をあげれば、①2005年5月、JR福知山線脱線事故で、伊丹市などの自治体が安否確認、見舞金支払いのため名前などの情報提供をJRに拒否された。2006年2月、地域がん登録制度を実施する三十五道府県のうち十県が病院などからデータ提供を拒否された。③2007年7月、新潟県中越地震で大きな被害が出た柏崎市では避難支援を必要とする要援護者のうち一人暮らしの高齢者でいまだ連絡のとれていない人が八割に上る。
最近では「個人情報保護法」が壁になって、二人姉妹が孤立死した話題が放道された。この姉妹は、早くに両親と死別し、姉が就業して軽度の知的障害のある妹との生活を支えていた。姉が体調をくずし、仕事を辞めて妹の障害福祉年金で何とか生活を継続。しかしアパートの家賃も払えず、ガスも電気も止められた中で過ごし、役所の生活保護係に出向いて生保の申請をしたが「生保を申請する前に就業先を探すように」とのコメントを受けて、そのまま飢餓と寒さの中で孤立死していたのが数か月後に発見された。同じ役所の同じフロアーの中に、生保係と障害福祉係があるのに、「個人情報保護法」が壁になって2つの係りの間で姉妹の生活情報を共有できていなかったとのこと、命に係わる情報が同じフロアーでさえ共有されないことは、この法律の負の実態を見る気がした。
4.「過剰反応」への対応方法
特に医療分野に於いて個人情報の第三者提供に関し厚労省では平成十八年四月二十一日「医療・介護関係事業に於ける個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」を作っている。
本人が意識不明、認知症である場合、医療機関は症状の説明義務が家族等に対してあるので、治療に関するもの、過去の病歴も情報取得もできる。本人の意識が戻れば家族等への説明内容を伝えねばならない。なお「家族」は民法上親族の範囲内であるが「家族「等」」の表記で緊急措置として身近に付き添っている友人、付き添い人であってもよい。日本の医療機関は敏感になっていることもあり、過剰反応してしまう傾向があるが、この個人情報保護法は個人を守るためのものであり、情報を管理するものでないことを念頭に置きたい。
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