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日本女性学会研究会「中国のフェミニストに聞く」 秋山洋子

2012.12.14 Fri

 日本女性学会は、2012年11月10日(土)、中国の陝西師範大学教授である屈雅君さんを招いて、公開研究会「中国のフェミニストに聞く」を開催した。
 この研究会の企画は、陝西大学女性研究センター長・同大学中国婦女文化博物館館長である屈さんが、11月11日に開催されたシンポジウム「大娘たちの戦争と記憶――中国で日本軍性暴力パネル展を開催して」の講演者として来日されると決まったことから始まった。このシンポジウムは、中国における日本軍性暴力を調査し、被害者である大娘(タ-ニャン・おばあさん)たちへの謝罪と補償を求める裁判を支援してきた日本の民間グループが、中国で展開しているパネル展を日本の人たちに知ってもらうために企画したものである。最初は公立の巨大な抗日紀念館で開催されたパネル展は、屈さんたちが大学の婦女文化博物館に持ちこんだことによって、中国の女性たちに知られることになり、その後各地での自主的な開催につながっている。シンポジウムで屈さんが行った「女性・平和・民族自省」と題する講演は、偏狭なナショナリズムを排してそれぞれが自国の過去を反省することによって、はじめて真の平和をもたらすことができるという趣旨で、日中両国の関係が最悪といわれるこの時期に、勇気ある発言として参加者の心を打った。このシンポジウムについては、wanのビデオ班が密着取材していたので、近くネット上で公開されるはずである。
 日本女性学会の研究会は、中国の代表的なフェミニストである屈雅君さんが来日されるなら、日本のフェミニストと交流する機会も作りたいと日本女性学会の幹事会と相談し、研究会担当幹事である金井淑子さんが勤務される立正大学で開催の運びとなった。屈さんもこの企画を喜び、シンポジウムとは別に、現代中国の女性をめぐる状況を分析した「現代中国における三種の女性ディスコース」という講演を用意してくださった。講演の要旨は次のとおりである。
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 ジェンダーの視点から現代中国の公共言論空間を見ると、少なくとも女性に関する三種のディスコース体系が存在する。三種のディスコースは、異なる領域に属し、異なる人びとによって使用され、異なる文化媒体によって声を発している。三者の間には、対抗と共鳴という複雑な関係が成り立っている。
 第一のディスコースは(毛沢東の発言に由来する)「天の半分」ディスコースである。マルクス主義イデオロギーを基盤とするこのディスコースは、数千年来の「男は外、女は内」というジェンダーの伝統的な型を破り、はじめて大勢の女性たちを私的空間から公共空間に引き出した。このディスコースを代表するのは、公的な女性組織である中華全国婦女連合会であり、女性の権利擁護やジェンダー主流化のために活動してきた。しかし同時にこのディスコースは、男性権力による主流イデオロギーを代弁するものでもある。
 第二は、「フェミニズム]のディスコースである。これは西方フェミニズムの影響を受けた、中国社会における唯一の女性の独立した声である。1995年の国連世界女性会議以来、中国のフェミニズムは大きく発展し、女性学/ジェンダー研究も広まった。しかし、このディスコースは主として都市のインテリ女性に担われており、そのため新しい中心/周縁(西方/中国、エリート/大衆)構造を生み出しかねないというおそれがある。
 第三は、市場経済の産物である「現代淑女」ディスコースで、女性は有能であると同時に美しく、やさしく、上品でなければならないというメッセージを発する。これは本質的には男性権力に属するディスコースであるが、「私性」「身体」「欲望」といった語彙をフェミニズム・ディスコースと共有し、また硬直した「天の半分」ディスコースを脱構築する働きをする。
このように、三者は微妙なバランスをとりながら現在の中国社会の中で共存している。
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 当日の講演は、原稿にないエピソードや、スライドでの婦女文化博物館の紹介なども含め、2時間にわたる熱のこもったものになった。これを受けて、金井淑子さんからのコメントとして、日本の女性をめぐる状況、とりわけ不可視化されている女性の貧困問題について報告があった。さらに会場からの質問を受けて、中国におけるDVの現状と対策などにも話が及んだ。当日は行事や入試などと重なって、参加者は30人あまりと多くはなかったが、直接接する機会の少ない中国のフェミニストの声をじかに聞けた貴重な会だった。なお、屈雅君さんの講演原稿は、来春発行する日本女性学会学会誌『女性学』に全文掲載する予定である。

カテゴリー:日本女性学会

タグ:DV・性暴力・ハラスメント / 女性学 / 中国 / ジェンダー研究 / 秋山洋子