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2015年7月11日、再出発の日 - 中嶋里美
2015.07.28 Tue
「人生には何度も再出発の日がある」
これは評論家であり、行動する女たちの会の会員でもあった俵萌子さんが色紙に書いて下さった言葉である。
俵さんは書いたり、講演をしたりする以外にも絵を描いたり、陶芸をしたり赤城に美術館をたてたり、乳癌の手術のあとは癌患者と共に生きる会を主催したり等多方面にわたって活躍された。そんな中で私が最もひかれる彼女の行動は次のようなものだ。
俵さんは赤城に広い土地を買い家を建てた。しかしそこへ行くには車の運転が出来なくてはならない。すでに50才を過ぎていた。俵さんは先ず新車を買いそれを玄関前に置いた。
それから車の免許を取りに出掛けた。「50を過ぎて初めて免許を取るのは大変なのよ」と言った言葉が今私の中でよみがえる。「年齢かけ一万円ね」とも言ったようだ。免許をとるだけで50万円以上がかかったのだなとその時の私は記憶した。免許を取り東京—赤城間の往復を楽しんだ。
私は俵さんの絵入りコーヒーカップを一つ購入した。そして冒頭の色紙をいただいた。「再出発が何度もある」はなんと挑発的な言葉であろうか。
2015年7月11日は私にとって記念すべき日になった。この日東京新聞朝刊は「行動する女たちの会」の活動をまとめた資料集が刊行されたことを報じてくれ、刊行に携わった私たちの写真も入れてくれた。夕方からは東京ウィメンズプラザで『行動する女たちの会資料集成』出版記念会を行った。
モンタナ州立大の山口智美さんと和光大学名誉教授の井上輝子さんが「行動する女たちの会」とはどんな会であり、その活動内容を資料集としてまとめることの意義を語ってくれた。
行動する会の運動を次世代にどうつなげていくかのテーマでは樋口恵子さんが会をつくるにあたって市川房枝さんや田中寿美子さんの力が背景にあったことを伝えてくれた。時間の制約もあり次世代にどう伝えるか迄は及ばなかった。しかし次世代への継承は大きなテーマであり、私は今回の資料集刊行でも重要な役割を果たしてくれた山口智美さんに期待したい。山口さんはアメリカで女性学や文化人類学を学び、日本の女性運動に興味を持った。帰国した1996年6月に行動する女たちの会へ入会を希望したが会は解散を検討していた。
「最後の新入会員」として資料の片付けを手伝ってくれたが、膨大な資料を読みこなし多くの人をインタビューして博士論文を完成させた。そしてこれからの運動に生かしていくことの必要性を感じてくれた人である。
参加者70名中には元会員も20名以上がいて一人ひとりが会での活動やその後の人生を語ってくれた。20年ぶり30年ぶりの人とも出会えて興奮した夜だった。
近くのレストランで二次会も開かれたが私はこの夜11時から始まるテレビ番組を見る為急いで会場をあとにした。
NHK教育テレビ「日本人は何を目ざしてきたか、未来への選択−女たちは平等を求める」の中で私も取材を受けていた。
1975年に「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」は誕生したがその年の9月に二つの抗議行動を行った。一つは9月23日にNHKの小野会長はじめ幹部の人たちに会い、27項目にわたる要望書を手渡した。もう一つの行動は9月30日ラーメンのコマーシャル「私作る人、僕食べる人」に異議を申し立てたことだ。性別役割分業意識を短い言葉で刷り込むこのコマーシャルは抗議の一ヶ月後に消えた。
しかしこの二つの行動に対する週刊誌等のバッシングはすごかった。「本質からはずれているのでは」「ヒステリックだ」「目に余る売名行為」等々。私たちはこうした週刊誌の取り上げ方についても編集者たちと話し合い、そのお粗末な記事の作り方や誹謗中傷に対して裁判に訴えた。
テレビでは「作る人、食べる人」の抗議について私が語っている部分が取り上げられた。
一時間半のこの番組は戦後から現在に至るまでの女たちの闘いの歴史を紹介していた。闘ってきたさまざまな人の顔や話しが紹介され私もなつかしさでいっぱいになった。
朝の新聞、夕方の集会、夜のテレビは私たちのこれまでの行動に対する贈り物のように思えた。
体調を整えて再出発の日を迎えたいと思った。
*文中で紹介されている『行動する女たちの会資料集成』についての詳細は、六花出版のサイトhttp://rikka-press.jp に掲載されています。
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