views
1342
回答18:養父知美弁護士
2013.10.04 Fri
相続登記をせずに放置される理由
相続が生じ、遺産分割協議をせずに、あるいは遺産分割協議も終わっているのに、相続による所有権移転登記をせずに放置されている土地や建物は、けっこうたくさんあります。
その理由は、いろいろあるようですが、「登記するのにお金がかかる」というのも多いようです。相続登記をする際の費用としては、登録免許税(登記する不動産の固定資産評価額の1000分の4)に、戸籍謄本等の取寄費用(部数によるが1万円くらい)、手続きを司法書士さんに依頼する場合の手数料(数万円)等がかかり、不動産の価格にもよりますが、合計10万円~数十万円かかることがあります。現金が手元にないと負担感が大きく、先送りしてしまうようです。
しかし、どう手続きしたらいいか具体的に分からない、調べるのも面倒、忙しい、書類を取寄せたり手続きが面倒、今とくに必要じゃないし・・、などと思って放置しているうちに、ますます面倒になってしまったというのが、一番多い理由のようです。メンドクサイだけなら、多少お金がかかっても、司法書士さんに丸投げする方法もあるのですが・・。
お兄さんの場合も、単にメンドクサがっているだけ、の可能性も高いように思います。
相続登記をせずに放置しているとどうなるか?
登記するのが面倒だといって放置していると、ますます面倒なことに。
先日も知合いから、「土地を売りたいのだが、祖父名義のままになっている。どうしたらいいか?」との相談を受けました。「父からは、この土地は祖父より父が相続したと聞いており、父が管理し固定資産税も払っていた。」とのことでした。しかし、遺産分割協議書らしきものは見つからず、「父の姉妹弟のうち2人は父より先に亡くなっており、1人も先日亡くなった。」とのこと。
今から、相続登記をしようと思うと、まず、祖父の相続人を確定するために、祖父の子どもの頃からの戸籍を集める必要があります。家制度を廃止した戦後の大改正(1947年改正)後の民法によると、相続人は、配偶者(民法第890条)と子どもが第1順位であり(民法第887条)、子どもは長男二男、男女の別なく均等に相続することになっています。そこで、分かっている以外に、祖父に子どもがいないか、確認する必要があるのです。戸籍を遡って、古い戸籍(除籍・原戸籍)を何通も、集めなければなりません。
祖父の相続人が確定したら、その全員による遺産分割協議書を作成する必要があります。祖父の代の相続となると、相続人も既に亡くなっている場合も多く、祖父と相続人の死亡の前後により、代襲相続人(相続人の子ども 民法第887条2項)や相続人の相続人との協議が必要になってきます。その人も亡くなっていると、その人の代襲者(相続人の孫 同3項)や相続人との協議が必要になってきます。となると、子、孫と枝分かれしていき、協議が必要な人は、かなりの人数になってきます。顔も見たことがない叔母さんや従弟、住所が分からなくなっている人、祖父の死亡時の事情を知らない人、権利を主張してくる人、偏屈な人・・、人数が増えると、いろんな人が出てきます。
そして、遺産分割協議の対象となる全員の同意が得られ、署名と押印(実印と印鑑証明)が得られないと、遺産分割協議書は完成しません。一人でも同意しない人が出てくると、遺産分割協議が成立せず、遺産分割調停や審判など、家庭裁判所での手続きが必要になります。
これらの作業は、けっこう大変です。祖父が亡くなったときに、速やかに遺産分割協議書を作成し、相続登記をやっていれば、ここまでの面倒は避けられたはずです。
まずは、説得を!
このまま放置していると、上述のとおり、お互いの子や孫に面倒をかけてしまうことになります。お兄さんに、このことを説明して下さい。そして、なぜ、相続登記をしようとしないのか、もう一度よく話を聞いてください。司法書士さんへの連絡や費用などを、あなたが負担してもよいことも、もう一度伝えて下さい。「兄のメンツ」もあって、今さら頼めなくなっているのかもしれません。
お兄さんが、それでも、名義変更しようとしないのであれば、困ったことが生じて、あなたに相談してくるまで放っておきましょう。先回りして、あれこれ心配してもはじまりません。
処分しようと思うと名義変更が必要ですが、そうでないと、名義変更しなくても特には支障がありません。名義変更せずに放置されている不動産が多いのも、そのためです。あなたは「いらない」と言っておられるようですし、なおのこと、あなたが不利益を被る恐れは少ないように思います。
住宅ローンと相続
①お父さんがお兄さんのマンションの住宅ローンの保証人だったのでは?
②家と土地がお兄さんのマンションの住宅ローンの担保になっているのでは?
ご心配されているようですが、仮にそうであったとしても、いずれの場合にも、相続登記をする支障にはなりません。
仮に、家と土地がお兄さんの住宅ローンの担保になっていたとしたら、担保付(抵当権付)の不動産を相続することになるだけです。お兄さんがローンを払えなくなった場合、担保権(抵当権)が実行されて、競売にかけられる可能性が出てきます。不動産に担保(抵当権)がついているかどうかは、その不動産の不動産登記簿によって簡単に調べることができます。
お父さんがお兄さんのマンションの住宅ローンの保証人だった場合、お父さんの保証債務をあなたも相続することになります。なので、お兄さんがローンを払えなくなった場合、残ったローンの2分の1については、あなたにも請求がいく可能性はあります。しかし、その場合も、まずはお兄さんのマンションについている抵当権が実行されるはずですし、相続財産である家と土地からも回収がはかられると思います。実際に、あなたに請求がいく可能性は低いのではないかと思います。
ご心配なら、お兄さんに確認してみて下さい。住宅ローンの契約書を見せてもらうか、借入をした銀行に問合せをすれば、お父さんが保証人になっているか分かります。以上
タグ:くらし・生活 / no18 / 法律相談 / 家制度 / 養父知美 / 戸籍 / 除籍 / 相続登記 / 遺産分割協議相続 / 所有権移転登記 / 登録免許税 / 固定資産評価額 / 司法書士 / 原戸籍 / 代襲相続人 / 実印 / 印鑑証明 / 遺産分割調停 / 審判 / 名義変更 / 住宅ローン / 抵当権付 / 担保 / 不動産登記簿 / 保証債務