エッセイ

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「旅は道草」その1 イスタンブールでオリエント急行に遭遇

2009.05.25 Mon

 子どもの頃の道草にも似て、ふらりと宿を決めずに行く旅は、思いがけない道草の旅となる。まだ見ぬ世界を見てみたいと年に一度の旅に出る。南まわりシンガポール~ドヴァイ~イスタンブール~マルタ~シシリア往復の15日間もまた、エキサイティングな旅となった。 早朝、イスタンブール着。始発を待ち、メトロとトラムヴァイを乗り継いでスィルケジ駅近くの一泊2000円の安宿に決める。宿の窓からボスポラス海峡が見える。朝はモスクから聴こえるコーランの祈りで目が覚めた。
 海からのぞむイスタンブールの風景は、船で入るベネチアのそれにも似て、東西文化の融合と調和のさまを、よく教えてくれる。
 エジプシャンバザール近くのリュスティンパシャジャーミー。誰もいないモスクに入ると、窓から差し込む陽に映えて、イズニックタイルの青と朱色が目に飛び込んできた。
 トプカプ宮殿の中庭。木陰のネコが眼をかすめた。呼ぶと一目散に走ってくる。リュックにあった阿闍梨餅を一つ、ペロッと食べると膝の上でぐっすり眠ってしまった。
 アジア側の町・ユスキュダルから船で戻って宿で一服。突如、向田邦子「阿修羅の如く」のテーマ曲風、賑やかな演奏が響いてきた。窓から見るとスィルケジ駅にオリエント・エクスプレスがしずしずと入ってきたではないか。そうか、アガサ・クリスティ『オリエント急行殺人事件』の終着駅はスィルケジ駅だった。それも年1回、到着の日に偶然、遭遇したのだ。ミーハーな私は慌てて駅に走り、構内にもぐりこみ、写真を撮る。1977年、ワゴン・リ社の事業撤退後、82年、ベニス・シンプロンOEが運行を復活。レストランカー、コンパートメント、ブルマンカーなど豪華な装飾をほどこした車両編成が見事だ。パリから長旅を終えた貴婦人たちが降りた後、スルタン風の車掌と並んで写真を撮っていた。すると何の間違いか、フランスの新聞記者が、私を乗客と思ったのか、「写真を1枚」とパシャリ。もしかしたら私、翌日のフランスの新聞の片隅に載ったかもしれないな。
(やぎ みね)

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カテゴリー:旅は道草

タグ: / やぎみね / イスタンブール

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