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栗本薫さんと氷室冴子さんによせて 千田有紀
2009.06.15 Mon
氷室冴子さんが肺がんで亡くなったばかりだというのに、栗本薫(中島梓)さんもまたがんで亡くなられた。わたしを含むいわゆる「アラフォー」世代にとって、ふたりは特別の作家だったのではないかと思われる。氷室冴子さんは、「少女小説」というジャンルを創設した第一人者であった。
少女小説そのものをパロディにした『少女小説家は死なない!』という本を書いたため、「少女小説」という言葉が独り歩きし、苦しんだと後に語られていたが、「少女小説」というジャンルは当時、少女マンガ以外のジャンルで、「等身大の女の子」の経験を救い上げくれる稀有なジャンルだった。
一夫多妻で妻訪婚の平安時代を舞台として、自分の言いたいことをはっきりという行動的な瑠璃姫を主人公とする『なんて素敵にジャパネスク』や、女の子同士の友情をテーマにした『クララ白書』や『アグネス白書』を読んで、わたしたちは友だち同士で感想を語り合ったことを思い出す。テクストにはっきりとしたフェミニスト的メッセージがあっただけではなく、わたしたちに共感しあう読者共同体を与えてくれた氷室さんは、少女小説家のなかでも突出した作家さんだった。晩年は、ほとんど筆を取られないでいたが、わたしたち読者のためではなく、ご自分のための充実した生を生きていられたのだと思いたい。
栗本薫さんは、今日、やおいやボーイズラブと呼ばれるジャンルを日本に作り出した創設者である。若くして流行作家になった栗本さんが、『真夜中の天使』や『翼あるもの』というホモセクシュアルの小説を発表したこと自体が衝撃であった。
いまやジャンルの名前にもなっている雑誌『JUNE』に、多くの小説をペンネームを駆使して発表されただけではなく、「小説道場」を主催し、今活躍する多くのボーイズラブ作家、秋月こお、英田サキ、榎田尤利などを生み出した。今のボーイズラブジャンルの確立は、彼女抜きにはあり得なかっただろう。
わたしは栗本薫名義の小説(『グイン・サーガ』など)をその後ほとんど読んでいないが、評論家中島梓の『コミュニケーション不全症候群』や『タナトスの子供たち』を、面白く読んだ。やおい好きの当事者には評判がイマイチの本ではあるが、フェミニズムに距離を置く身振りを裏切って、フェミニズムとやおいの関係に深く切り込む本であった。少なくとも、なぜ多くの女性読者が男性ホモセクシュアルの本を読み、そして書くのかという問いに、栗本さん以上に応えた評論家をわたしは知らない。やおいは、貞操に価値を置く家父長制社会への反抗でありながら、究極の一夫一婦制カップルによって孤独から救われるというカップル幻想を維持する家父長制社会への適応をもまた促進する両義的な存在であると、わたしも思う。どういうスタンスから分析するかには、それぞれ立場があるだろうけれども。
二人の訃報に接して、ある意味青春時代が終わったかのような気持ちにさせられた。お二人のご冥福をお祈りしたい。
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