エッセイ

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南アフリカだけがレイプの国ではない。 楠瀬佳子

2009.06.22 Mon

6月20日のグーグルのトップニュースに、サンケイスポーツ「南アW杯不安」、日刊スポーツニュース「南ア、男性の4人に1人レイプ経験認める」、スポーツニッポン「南アじゃ日常茶飯事!?4人に1人がレイプマン」と出ている。「南アの劣悪な治安状況を裏付けた形で、W杯開催に向け、不安材料の1つにもなりそうだ」と結んでいる。これらの記事は、「南アフリカが危険な国、レイプ国家」というイメージを振りまき、ワールド・カップを楽しみにしているファンに不安を煽っているだけだ。 実際には、ワールド・カップは南アフリカの9都市の10スタジアムで開催されるが、どれも最新のハイテクを駆使した超近代的で、最もセキュリティのきいたものが建設中である。中には世界最大級のスタジアムもあり、多くはかつての白人都市のど真ん中にあり、開催には何ら問題はなく、莫大な国家予算を投入して、国家の威信をかけている。それには別の問題も発生しているが、ここではひとまず置いておく。私が問題にしたいのは、日本のメディアはなぜ「アフリカ=危険地域」というイメージで語ってしまうのだろうか。

 この記事の出所は、南アフリカの厚生省が管轄する医療調査評議会の「ジェンダーと健康に関する調査班」が出した報告書である。

 調査班は、イースタン・ケープ州と、クワ・ズール・ナタール州の広範囲にわたる農村地域、都会を含め、2298人のうち1738人の男性に無記名でインタビューを行なった。年齢層は25歳以下が半数、30歳以下が70%を占める。
 
その結果として、27.6%の男性がレイプをした経験がある。14.3%の男性が現在の恋人や、元恋人をレイプしている。ほとんどが、アルコール類を無理矢理飲ませて、セックスを強要している。20歳以下の男性の73%が女性や子供にセックスを強要していることも明らかになり、南アフリカの男性の意識の根底に男性優位主義があることを指摘している。

しかも、レイプ経験のある男性の多くは、教育水準も高く、仕事にもつき、一ヶ月の収入が500ランドから1万ランドまでさまざまな層であるが、女性に対して権力を行使しやすい地位にあり、女性をレイプすることで喜びを感じていることを明らかにしている。その状況を「アフリカの男性文化」とする暗黙の了解や、子供を養育する親としての責任放棄、児童虐待、子供時代のトラウマ等に問題が起因していることを指摘し、最大の問題点は、強姦者に犯罪を犯したという意識がないことだと強調している。

 そして政府への提言として、レイプ・サバイバーへの理解とさまざまな支援、男性優位主義の意識改革、ジェンダー平等教育への財政投入などをあげている。さらに宗教を理由に男性優位社会が助長されていることも問題視している。

 私が2007年に滞在していたウェスタン・ケープ州で発生したレイプ事件は、わずか4000件しか警察に報告されず、その犯罪者の半分も逮捕されていない。有罪判決を受けるのは、ほんのわずかである。現大統領も、かつてレイプ事件で裁判にかかり、「レイプは男の文化」を豪語するほどであった。バージンの女の子とセックスをすれば、エイズが治るという馬鹿げた迷信のために、6歳の女の子がレイプされた挙げ句に殺された事件もあった。レイプが日常の犯罪になり、女性が犠牲になっている。

 だが、レイプが問題にされるべきなのは、はたして南アフリカだけなのだろうか。最近では、日本のあちこちの大学で女性がレイプされる事件が発生している。レイプは女性の人権に対する犯罪であり、絶対にレイプを容認してはいけない。南アフリカであれ、日本であれ。ワールド・カップに影響がでるからではない。

カテゴリー:ちょっとしたニュース

タグ:DV・性暴力・ハラスメント / サッカー / 楠瀬佳子