2009.07.09 Thu
大転換である。政府与党が2010年「骨太の方針」をくつがえした。
2001年、小泉政権がつくった経済財政諮問会議が毎年出してきた骨太の方針のなかには、2006年の「聖域なき改革」、すなわち社会保障費の総額抑制がはいっていた。そのなかに5年間で1兆1千億円、毎年2千2百億円の社会保障費を削減する、という方針があった。「聖域なき」とは、貧しいひとや困っているひとたちも容赦なく予算削減の対象とすることを意味していた。 こうして医療費が削減され、介護保険が改悪され、生活保護費の母子加算が廃止された。医療崩壊が起き、ついで介護崩壊が起き、それでなくても不況のせいで追い詰められている母子家庭からわずか月2万円程度の加算をもぎとった。もうぎりぎりの限界を超えたというのに、今年も方針通り、2200億円を削減する方針が、あわや、決まるところだった。
医療崩壊も介護崩壊も人災、いな、政治災害である。ましてや少子化対策を謳っている政府が、必死に子育てをしている母子家庭に対する援助を、ふやすどころか削減するなどとは信じられない。社会保障費総額抑制の前提には、財政バランスの健全化をめざす行政改革路線があった。社会保障費総額抑制を「経済財政諮問会議の呪い」と呼んだのは、医療ジャーナリストの大熊由紀子さんである。その「呪い」は解けたのだろうか。
小泉改革の方針からの大転換なら、これまでの政策がまちがっていた、と認めてからにしてほしい。これまで「骨太の方針」をつぎつぎに承認してきたのは、小泉郵政選挙で国会の安定多数を得た現在の与党だ。数をたのんで無理を承知の政策を再議決で通してきたその同じ与党が、今度はそれとまったく逆の選択をする。
それというのも、一昨年の参議院選挙での大敗で、参院の与野党が逆転したことや、麻生内閣の支持率が急落したことなどが、原因だろう。補正予算のばらまきで「財政健全化」などふっとんでしまった。117億円のアニメの殿堂をつくるおカネはあっても、生活保護を受給している母子家庭にわずかな母子加算をつけるおカネはないのか、と言いたくなるのは、民主党の鳩山由起夫さんばかりではないだろう。
それにつけても定額給付金の原資であった2兆円があったなら…どんなにいろんな政策が可能になったことだろう。定額給付金は景気浮揚策だったはずだが、政策効果があがったかどうか、政府は測定しているのだろうか。
この無為無策無能の政府が、それどころか愚策にカネを垂れ流している政府が、わたしたちの信任を受けた政府であり、それに国会で承認を与えているのが選挙で選ばれた選良であるとは信じたくない。民主主義では、結局、国民は身の丈に合った政府を持つ、と言われる。オバマが大統領になる前は、もし次の大統領選挙で政治が変わらなかったら、アメリカ人を辞めたい、ともらしたアメリカ人たちがいくにんもいた。もし次の選挙でも、日本の政治が変わらなかったら? わたしは日本人を辞めたくなるだろう。
(信濃毎日新聞2009年6月29日「月曜評論」掲載記事)
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