2009.07.17 Fri
ふたり暮しをはじめて半年以上、色々大変なこともありました(ちなみに相手とは、学部生時代からの付き合いです)。
彼女は4月から働き始めたのですが、「女性が企業で働く」ということは、本当にたいへんだなと、パートナーとしてあらためて思います。そこは、「残業はなし」という社員数名の中小企業だったので、条件は悪くはありません。それでも、もし妊娠したら、そこの会社が産休・育休を出してくれるのか、何の保証もありません。 彼女の同僚のパートの女性は、みな出産を機に前の会社を退社した人ばかりです。「産休・育休が取れないし、夫の収入もあるし…」ということで退社したが最後、いざ再就職しようとすると、今のシステムの壁にぶち当たったそうです。会社からは、「子どもがいる」というだけで採用を断られ、「泣きながら何枚履歴書を書いたか分からない」。やっと面接にこぎつけても、「子どもを迎えに行くのならパート採用のみ」と言われ、甘んじて受けざるをえない…。
すごく思うのが、「能力がある」ということと、「長時間労働ができる」ということは、違うということです。彼女の会社は、そのパートさん抜きでは回りません。そのパートさんたちは、話を聞く限りでは、社長より有能です(笑)。それだけ有能な人でも、「子どもを迎えに行かなければならない」というだけで、「パート契約」に振り分けられるのです(そして、この話からも分かるとおり、同じ「子どもをもつ親」でも男親の方は、その負担を負わずにいることが、やはり多いのです)。
ところで、4月以降、家事は僕が主に担当してきました。僕の身分は大学院生なので、出社・退社時間が決まっているわけではありません。そこで、比較的フレキシブルに動ける僕が、多めに家事を担うことになりました。
その経験からすれば、男性に家事が向いてないなんて、大嘘です。僕は、食費を節約しようと、ふたり分のお弁当も含め、三食つくっています。洗濯もふたり分、洗い物もふたり分…結局、こなせてしまうのです。
ただし、この家庭生活と研究生活を両立させるのは本当にしんどい。「働きながら出産、子育て」をこなしている人がいることに、僕は本当に驚きます。
さて、よく「ケアは女性の仕事」のように言われますが、それはもはや通用しません(僕の話も多少の「証明」になるでしょうか?)。例えば、高齢の家族を介護している人の3分の1は、男性です。僕の専門は、高齢者を介護する家族の調査なのですが、現場でもよく、「妻を介護している夫」という立場の男性に会います。その中から例を出しましょう。
工場を経営していた男性は、ある時、病気の奥様の介護を担わざるをえなくなりました。その結果、売り上げが400万円も激減してしまいました。「僕、今年の春には工場をたたもうと思ってますねん」とは、今年の1月にインタビューした時の彼の言葉です。それから数ヶ月も経たないうちに、とうとう工場を廃業されたと、連絡をいただきました。
家族が介護を必要となったことで勤務形態を変え、収入が百万単位で激減した知り合いは、その人以外にも、男女を問わずいます。あまり指摘されませんが、家族に介護が必要になったことで、それまで苦でもなかったローンの支払いが、非常に重くのしかかってくることがあります。医療費、オムツ代などの介護関係の出費は、それまでの生活設計を大きく組み替えさせます。しかし家族に介護が必要になったからといって、それまでに立てていた人生設計を「チャラ」にはできないわけです。
そうやって家族の面倒をみなければならない人が市場から排除されることは、決して「能力主義」ではないと強調したい。男女を問わず、能力のある人にケアを押し付け、その人たちを市場から排除するのが、今の日本のシステムです。
(この文章を書いたのは、6月のはじめでした。余談ですが、僕のパートナーは6月末に会社を辞めることになりました。契約条件のウソ、不当な評価、社長の無能さ…理由はいろいろあります。しかし、失業中の彼女の落ち込みぶりは、見ていて胸が痛むものがありました。過酷な労働で疲れ果てた中で、育休、産休などの条件も考慮して仕事を選びたい。しかし、そんな仕事は見つかるのか? 親からは、「そんな会社を選ぶお前が悪い」となじられる…結局、資格を生かす形で、8月から医療系の専門職に就くことになりました。しかし、もし資格がなかったら? 彼女の落ち込んだ姿が、日本の労働市場に出た多くの女性と鏡映しなのだと、しっかりと心に留めたいと思っています。)
(きのした しゅう、京都大学大学院・院生)
(大阪市立大学、人権教育科目『ジェンダーと現代社会Ⅰ』補助教材、「Gender Paper」No.6(2009.6.19発行)より、一部改変の上、再掲)
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