2009.07.24 Fri
とにかく熱かった。物理的にも人間的にも。
どのくらい熱かったかというと、まず、開演の1時間半前から入り始めた来場者によって、開演時刻には既に200人規模の会場がほぼ満員になり、その人間の熱気で会場の気温があまりにも上昇したため、会場設営係は冷房の温度を5度下げた。当日の東京は良く晴れて、スタッフのTシャツは汗だくになった。しかも受付係の証言によると、たまたま隣の教室で行われていた別のシンポジウムの来場者がその場でWAN集会のほうに興味を持ち、途中から何人も移動してきたりしたらしい。関西や中部・東海といった遠方からの参加者も多く、中にはアメリカ合衆国からのご来場も。 このような中で、「ウェブがつなぐ女たち~個人的なことは政治的なこと」と題されたWAN東京集会は、7月20日13時半から、東京大学で開催されたのだった。
まずは、実行委員長の塩田三恵子氏がご挨拶と趣旨説明。
それから上野千鶴子氏による基調講演「女から女たちへ~ウェブ時代のシスターフッド」が行われた。「このタイトル、評判悪かったんです。ダサい、古いと言われました」。笑いと共にそう切り出した上野氏は、蔑称だった「女」という言葉をプラスの意味で引き受けた1970年代の女性運動に触れ、今あえて「女」と言うことの意味を語る。そしてWAN設立の「悲しい背景」(バックラッシュ、ブックストアの閉店、メディア環境の変貌)を論じる。ウェブ上でフェミニズムへの間違った情報や偏見があふれている現状に対して、フェミニズムの「ありのまま」を発信したい。そしてフェミニズムの共有遺産を伝えたい。上野氏によれば、WANの設立にはそのような願いも込められているという。その後はWANサイトの紹介とコンテンツ説明、またWANをサポートする方法などが述べられ、講演はぴったり時間内に終了。司会の木村民子氏がキレイにまとめて曰く、「前半は東大講義、後半はWANのスポンサーでしたね」。
休憩時間をはさんで、次に5人のパネリストとファシリテーターの甘利てる代氏によるトーク&トークが始まった。政治を通じて女たちはどうつながれるかというテーマをめぐり、「女性と政治をつなぐサイト」(今後開設予定)の紹介と、その可能性が論じられた。
まずWAN理事長の牟田和恵氏がWAN設立の経緯を率直な言葉で語り、次に寺町みどり氏が市民自治の立場から「今ここで困っている」地域の個々人をつなぐ必要性を指摘する。さらに野村羊子氏が女性議員の体験から「色々な力をつなげていくための場」としてのITネットワークの可能性に期待を述べる。また大塚恵美子氏が増大するウェブの力への実感と共に、「女たちが分断されないこと」をWANへの期待として挙げる。最後に熱田敬子氏が、「選挙や議会に到達するはるか手前のところで行われている無数の政治」の存在を指摘し、「個人的なことは政治的なこと」という(例の有名な)言葉の意味を再確認する。それから赤松良子氏からのメッセージが代読され(会場は重く聞き入り)、その後に改めて議論と質疑応答が行われた。甘利氏からは時に鋭く、時に率直な質問が投げかけられ、「女性と政治をつなぐサイト」への期待や可能性、実利性やITリテラシの格差について討論が進む。フロアからも「つながること」をめぐる様々な観点からの意見が出た。
刻限が来て集会がいったんお開きとなった後は、希望者のみが参加するオークションの時間。満面の笑みを湛えて本物のカナヅチで東大の教卓を叩く(もちろんそっとですけど)上野氏の、あまりにも本職めいた楽しい販売技術に魔法をかけられて、かなりの人数のご来場者がストールやカバンやアクセサリを買いまくり、かなりの額の収益が上がったらしい。
全体的に会場の中の人はみんな、静かに熱かった、と思う。メモを取っている人も多かった。もちろん考えていることはそれぞれ異なっていたとは思うけれども、それでも200人の視線がごっそり壇上を見つめるときのあの集中力や、発言者のことばがしんと聞き入られるときのあの緊張感、また基調講演とトーク&トークで話をした諸氏の気合とメッセージ性は、相当なエネルギーとなって会場の温度を上げていたと思う。実際、暑かったし。
個人的には今回の集会で、色々なバックグラウンドを持った、色々な地域の、色々な世代のリアリティを強く感じた。そして同時に、その多様なリアリティをこの場につなぎとめたのは、まさに「個人的なことは政治的なこと」という、身近な実感からだったのではないかとも。そのつながりを一押しする触媒のようなものに、これからWANがなっていければいいな、と思った。
カテゴリー:WANの活動