エッセイ

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「旅は道草」その4 「クアトロ・ラガッツィ」に誘われて、ポルトガルへ 

2009.07.24 Fri

 旅は、いつも読書から始まる。物語の主人公がいた街角を、ふと歩きたくなる。若桑みどり著『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節団』に誘われて、ポルトガルを旅した。
 400年以上も昔、4人の少年たちは長崎からマカオ~ゴア~リスボンへと、はるかな海を渡り、栄光と悲惨の生涯を終えた。若桑さんは、彼らの使命を描ききり、その4年後に急逝した。 リスボンは7つの丘の街。勾配のある狭い坂道をケーブルや市電が、軒すれすれに走り抜ける。古い街角にアズレージョがよく似合う。
 少年たちが旅の疲れを休めたサン・ロケ教会は、ケーブル・グロリア線の高台近くに今も建つ。リスボン郊外のシントラや、大学の町・コインブラも、彼らが訪ねたであろう昔も今も、変わりなく、静かな街の佇まいだった。
 沢木耕太郎著『深夜特急』の最終地はポルトガル南西端のザグレスだ。ならばヨーロッパ大陸最西端・ロカ岬に行ってみよう。列車とバスを乗り継ぎ、着いた岬は一面の霧。バスを飛ばして霧の中をシントラへ。王宮からムーアの砦を眺めていたら、ウソのように霧が晴れてきた。
 「そうだ、もう一度、ロカ岬へ行こう」。バスは、まだ間に合う。とって返したロカ岬は快晴。正解だった。「大西洋の彼方にイギリスが見える」と言ったら、笑われるかな。
 ポルトガルは、なんといってもポートワイン。甘いワインの源流を訪ねてドウロ川を遡る。ちょうどその日は空中アクロバット飛行を競うRed Bull Air Raceの開催日。人波を避け、ポルトのサン・ベント駅から列車で東方へ100キロ。渓谷いっぱいにブドウ畑が広がり、バックパッカーが、ちらほら。ピニャオン駅舎のブドウの収穫を描いたアズレージョンが美しい。
 時代とともに、ワインの出荷は、列車や船から、車にとって代わられた。しかし旅はやっぱり列車が一番。ポルトガルCP(国鉄)の時刻表を手に、AP(特急)、インテルシターデ(急行)、レジオナル(普通)、ウルバノス(郊外線)を全部乗り尽くした。前期高齢者になったばかりの私はシニア料金で半額。ほんとに申し訳ないくらい安かった。
 また本を読んで、よそ見をしながら、あちこち、道草の旅に出てみよう。
(やぎ みね)

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