エッセイ

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【特集:衆院選⑩】選挙権って、なんの権利なのか?   原田由樹

2009.08.25 Tue

 「いったい議員というものはアヘン、モルヒネ、コロロホムのようなもので、へたに選んでは害を受けるおそれがある。これは容易ならぬことと考えた」。

 これは、1890年の初の衆院選挙で納税額が基準に到達し、初めて有権者になった剣持弥惚治(やそじ)という人の回想である。在日三世である私は、帰化をして36歳にして初めて選挙権を得た。

 そのとき、数々の政策、マニフェストに期待をよせて、初めての一票を投じたわけだ。 しかし。それから5年。期待をよせて投じた私の一票とは無関係に、どんどん生きづらい世の中になってしまっている。大競争社会の行き過ぎが生んだ格差社会。社会的弱者が増え続けている。

 非正規労働者、という言葉がもう当たり前になり、正社員になるのも遠い夢のような社会。

 私とても、12年間勤めた大手メーカーを退職してからは、第二の正社員人生はない。それが結婚退職であればなおさらのこと。

 考慮されているとはいえ、面接でいまだに「お子さんはいらっしゃいますか」とか、「お子さんの予定は」と訊かれることもある。年齢で判断されるであろうことも多々ある。

 もちろん、経歴もあるだろう。メーカーに勤務していたとはいえ、高卒である私にはなんの専門性もなく、事務的作業の経歴しかないために、山とあふれる同じような経歴を持つ応募者から抜きんでるのは難しい。しかし、なかには素晴らしい経歴を持ちながらも、出産・子育てのために退職を余儀なくさせられる女性はいまだあとを絶たない。子育てがひと段落し、再就職を希望していても、ブランクによりその道を絶たれる場合がある。

 女性が会社を辞めなければならない多くは、実家が遠いとか、保育園がないとか、手助けをしてほしい夫が過重労働のため頼めないとか、いろいろあるだろう。結果、男女平等で働ける環境にある会社の、しかも優秀な女性社員が、残業や海外出張はできないなどの理由から会社を去らねばならなくなる。

 女性が働きながら子供を育てられる環境はまだまだ整っていない。

 「ワーク・ライフ・バランス憲章」が2007年に制定されたが、それでも男性の育児休業取得率は1%を下回る。これに関しては、どれだけ法律で固めても、企業側の考えが変わらないことには成り立たないのだろうけれど。

 働きたくても働けない若者や主婦。結婚も出産も安心してできない貧困者。

 一方で過重労働を課せられるサラリーマン。生活不安のためにいつまでも賃金生活をやめられない高齢者。このままいけば、どうにも八方ふさがりな日本になっていく、漠然とした不安がある。
 
 今回の総選挙でも、バラ色のマニフェストが掲げられている。そんな財源が予算内で確保できるのなら、選挙で言わないで、最初からやってほしい。ハローワークで列をなす人々の不安と焦燥と諦念がいりまじった表情を、政治家たちに見てもらいたいものだ。
 
 「へたに選んでは害を受ける」。弱者を救い、みなが社会に参加できる国を作ってくれる議員に一票を投じたい。

 私はまだまだ場数が少ない有権者だが、場数を踏んできた有権者には、じっくり考慮してこの選挙に臨んでもらいたい。

カテゴリー:ちょっとしたニュース

タグ:非正規労働 / 選挙 / 原田由樹