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映画評:『そして、私たちは愛に帰る』         濱野千尋

2009.08.27 Thu

 愛してるとあけすけに言える関係なんて、たぶんつまらない。愛は溢れているのに伝えられない、そんな間柄にこそ描くべきものがあるんだろう。言葉にできない思いを抱える人の表情や行動は雄弁だ。 登場人物である6人3組の親子は、それぞれ愛し合いながら、そんなことを言葉にできない状況や環境にある。老いらくの性の悦びを求め娼婦と暮らす父と、父を認められないインテリ息子。反体制運動に没頭する娘と今は娼婦となった母。真面目なドイツ人の母と、自由を求める娘。この6人がドイツとトルコをそれぞれの思惑で行ったり来たりするのだが、肝心の親と子はすれ違ってばかり。殺生な、会わせてあげてよと神様(監督)に文句を言いたくなる。すれ違いを強調する演出はクドめ。高度なじらしと取るかイライラするか、どっちかだと思う。もどかしさがMAXに達した頃、映画もクライマックスに。驚くような出来事は起きないが、あまりに静かで美しいラストに涙がぽろり。

<あらすじ>
 6人3組の親子の運命がトルコとドイツを舞台に交錯する。共通の話題すらない老齢の父とその息子。娘と生き別れた娼婦。保守的なドイツ家庭の母に反抗しトルコに渡る娘。3組の親子は、再び巡り合い、愛を伝えられるのか。

 DVD情報はこちらから
http://wan.or.jp/modules/b_wan/article.php?lid=4465

(はまのちひろ ライター)
(『新潮45』2009年1月号 初出)

タグ:映画 / 濱野千尋