エッセイ

views

1435

女性センターにおける「<やりがい>の搾取」とたたかう    京都市女性協会裁判・上告人 伊藤 真理子

2009.09.09 Wed

 2005年12月、財団法人 京都市女性協会(以下、「協会」)が管理運営する京都市男女共同参画センター「ウィングス京都」で嘱託職員として働いていた私は、他の嘱託職員とともに処遇改善を協会に求めた。だが、協会は嘱託職員の要求を真摯に受け止めることはなかった。私は、2006年12月20日、過去3年間の正規職員との賃金差額の支払いを求める裁判を京都地方裁判所に起こした(1)。裁判では正規職員との均等待遇を求めているが、私の中ではもう1つのテーマがある。それは女性センターにおける「<やりがい>の搾取」(2)の解明だ。 ソーシャルワーカーとして働くことを希望していた私にとって、新設された女性センターは「やりたい仕事」ができる魅力的な職場と映った。

 「ヒューマンサービス職はしばしば専門職であり、個人として高度なスキルや知識、職業倫理に基づいて行われる仕事」(3)だから、14万2千円の賃金に見合った「受付レベルの相談」でよい、ということはできなかった。また、利用者を支援する活動から得られる「やりがい」が、長年の不当な処遇に目をつぶらせてきたことも否定できない。

 このように低賃金の1年雇用契約であるにもかかわらず、私が意欲をもって働き続けた理由として、繼垂竄閧スい仕事、繼巣qューマンサービス、繼虫ゥ律・裁量性(専門職)、繼悼ソ値・理念性(社会貢献活動)、の4点があげられる。「やりたい仕事」の魅力が、そして「ヒューマンサービス・専門職・社会貢献活動」から得られる「やりがい」が、差別賃金に目をつぶらせ、低賃金での就労を受け入れさせた。さらに、相談室には正規職員が配属されていないことが、私の差別雇用に対する感受性を鈍くさせた。私のこの心理に付け込んだ低賃金非正規雇用が、「<やりがい>の搾取」の正体だった。

 これまで、非営利団体の協会が非正規職員を低賃金で雇い、しかも正規職員並みに働かせる、その理由が全く見えなかった。裁判を通じて、協会は非正規職員を低賃金で正規職員並みに働かせることで人件費を抑え、正規職員の賃金原資の確保を図ってきたことが明らかになった。2006年、協会が指定管理者になり正規職員の人件費が定額確保されたためか、2008年から非正規職員は相談員のみとなった。

 1994年設立時、役職なしの職員として30歳以下の正規職員10名、社会人経験のある30代、40代の嘱託職員4名、および市職員OBの嘱託職員3名が採用された。2年目から派遣社員が貸館業務を担当した。

 私は1994年嘱託職員として採用され、6年後に退職した。2004年に元上司から求められて再び就職し、2007年3月末定年退職したという経緯がある。

 最初の就職時の相談業務は、①電話・面接での相談、法律相談の同席、②年数回のグループ相談会の企画・実施、③相談件数の月報作成、④「女性に対する暴力に関する」外部ネットワーク会議(京都府・京都市・京都府警)への出席、⑤外部専門相談員の契約書作成などであった。再就職した2004年からは、それらに加えて、繼遂椏s市男女共同参画に関する苦情等処理制度の受付と関連業務、繼曹cVに関するシンポジウムの立案・交渉・実施、繼窒cVに関する人材養成講座の企画・立案・運営・講師、繼棟o前講座講師、繼白j性相談の予約業務、繼赴ヲ会の自己評価委員会の委員、繼柾T1回の夜間勤務、などが追加されていった。私はこれら新規事業の担当を命じられた。

 他方、京都市からの予算が削減されるなか、2004年から派遣社員が打ち切られ、他の係の職員が貸館業務も担当することになった。このように年々、職員の業務の質・量は増えたが、正規職員は年功賃金で昇給するのに対し、嘱託職員の賃金は1999年度から9年間、据え置かれたままだった。その理由は上で述べたとおりだ。その結果、一番賃金が低い正規職員との比較でも2倍近い賃金格差になっていた。それゆえ、私が嘱託職員に処遇改善を呼びかけた時、彼女たちは共感をもって処遇改善に立ち上がった。しかし冒頭で述べたように、改善は拒否された。

 提訴後、相談員の業務の一部を正規職員が担当するなど、相談員の業務はかなり軽減された。また、2008年には相談員の賃金が月額2万円増額され、次年度も増額されたと聞いている。それでも2倍近い賃金格差は残っているが。

 一方、裁判は最高裁に上告したところだ。協会の差別的労務管理の不当性を明らかにするため、正規職員との同一価値労働の証明に取り組んでいる。これは困難な作業であり、これをクリアする法律論構築がこの裁判の課題である。


1 上告人 ホームページ http://www.geocities.jp/trial2006jp/
2 本田由紀 「<やりがい>の搾取」『世界』3月号、岩波書店 2007年
3 同113頁

参考文献
「特集 いこ☆る第5回総会 パネルディスカッション 改正パート労働法と当事者のたたかい-女性たちの能力と熱意、やりがいの搾取はあかん!」 『働く女性の情報誌 』Vol. 16、 働く女性の人権センター 2008年

カテゴリー:ちょっとしたニュース / 男女共同参画

タグ:非正規労働 / 働く女性 / アンペイドワーク