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ショーン・コネリーが、少年ジャマールに教えたこと  やぎ みね

2009.10.24 Sat

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ご贔屓ショーン・コネリー主演のDVD『小説家を見つけたら』を見たら、J.W.エリソンの原作本を読みたくなった。主人公の老作家W.フォレスターのモデルはJ. D.サリンジャーだと思ったら、『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝訳73年版)を読み返したくなった。
 
 W.フォレスター(ショーン・コネリー)/J.W.エリソン/J. D.サリンジャー、三題噺じゃないけれど、3人の老作家が、少年ジャマールとホールデンに言づけたかったことは何か。「自分が書きたいものを書く、読まれるためではなく」というメッセージではなかったか。

 第一作でピューリッツアー賞を受賞、その後、姿を消した作家フォレスターと、バスケットボールと文学の才を持つブラックの少年ジャマール・ウォレスとの偶然の出会いから物語は始まる。世を捨てた老人が少年の才能を見いだし、葛藤しつつ、老人は少年に「書くこと」の奥義を教え、少年は老人に晩年の希望を与える。 「純粋な意味の質問とは、相手から情報を引き出すものではない」「自分のために書いたものは、なぜ常に他人に読ませるものより優れているのか?」「考えるんじゃない。まずは創造力を熱する。次に冷徹な分析をする。その順番が肝心だ」「第一稿はハートで書け。書くということの最初の鍵は、考えることではなく、あくまで書くことだ」。

 ショーン・コネリーの渋い表情も、ジャマール役ロブ・ブラウンのポーカーフェイスも、それぞれが背負う境遇を見事に表現して味わい深い。映画が暗示した伏線の意味を、原作を読んで了解。原作とは微妙に異なるセリフが、映画のクライマックスを高めて効果的と納得。フォレスターの受賞作に載った写真が、若き日の「007」のショーン・コネリーというのもご愛嬌か。

 1964年、日本訳初版『ライ麦畑でつかまえて』は、サリンジャーの分身ホールデン・コールフィールド少年の一人語りと会話で進む。50年代ティーン・エイジャーのアンチ・ヒーローを彷彿とさせる、いきいきした口調はちっとも古めかしくない。今も何十万冊と版を重ねているのも頷ける。1919年1月1日生まれというのも定かではないサリンジャー、果たして90歳をすぎた今も健在なのだろうか。

 自分の言葉が自分の中に流れてきたと感じたら、それが、文章が生まれるとき。友が友を呼ぶように、いい映画がいい本を呼び寄せてくれた。それにしても、WAN経由のAmazonで買った原作本が、たった1円とはビックリ。なんだか申し訳ないなぁ。

・DVD「小説家を見つけたら」フォレスター/ショーン・コネリー、ジャマール/ロブ・ブラウン

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・『小説家を見つけたら』James W. Ellison著、石川順子訳(ソニーマガジンズ文庫)
・『ライ麦畑でつかまえて』Jerome David Salinger著、野崎孝訳(白水社)








タグ:映画 / やぎみね