エッセイ

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<女たちの韓流・3>「がんばれ!クムスン」(1)キャンディレラ物語 山下英愛

2010.04.05 Mon

 日本でもすっかりお馴染みとなった「がんばれ!クムスン」(全163話、MBC)は、「私の名前はキム・サムスン」(MBC)と並んで、2005年の韓国で最も愛されたドラマの一つである。このドラマが<男女平等放送賞>の大賞を受けたことはすでに書いたが、MBCの<演技大賞>では、新設された家族賞の第1回受賞作となった。

 2005年といえば、韓国の女性運動史上、宿願だった戸主制廃止が成し遂げられた年である。戸主制は植民地時代に近代法として導入され、解放後、大韓民国の民法(1958制定)に新たに組み入れられた。韓国で初めての女性弁護士、李兌栄(イ・テヨン1914~1999)が中心となって、ただちに改正運動を起こし、約半世紀にわたる長い闘いを経て、ついに廃止に追い込んだのがこの年だった。また、2000年代に入ると韓国でも少子・高齢化問題が焦眉の課題として認識されるようになるが、そのような問題に対処するために、女性省を拡大して女性家族省としたのも2005年だった(2008年に発足した李明博政権が女性省に縮小したが、つい最近、再び女性家族省に戻った)。このように ‘家族’への社会的関心が向けられた時期に、このドラマは放映された。                    
 主人公のナ・クムスンは、20歳そこそこの女性である。両親とも幼くして失い、祖母に育てられた。田舎育ちで洗練さには欠けるが、真面目で、いざという時は自己主張もできる元気なキャラクターだ(‘クムスン’という名前にも一昔前の野暮ったい響きがある)。高卒で、美容師になることを目指しているが、なかなか検定試験に受からない。そのうち、家に下宿している前途有望な大学生と恋に落ち、間もなく妊娠。反対する男の両親を何とか説得して結婚するが、新郎は交通事故であっけなく死んでしまう。舅姑は息子が死んだのはクムスンのせいだと責め、子どもを堕ろして家から出ていけと辛くあたる。だが、クムスンは婚家に居座って子どもを産み、見習い美容師として一生懸命に働く。勤め先の美容院の院長の息子で大学病院の研修医をしているク・ジェヒと知り合い、多事多難の末に相思相愛の仲となる。そんな二人の前に次々と現れる障害を一つ一つ乗り越え、ようやく結婚にゴールインする、という内容だ。また、死んだと聞かされていた実母との再会と和解、婚家の長兄夫婦をめぐる葛藤やクムスンの叔母さん家族のストーリーなども織り込まれた、典型的な家族ドラマである。

 冬ソナのカン・ミヒが、稀有な才能と裕福な実家を持ち合わせていたシングルマザーだったのとは対照的に、クムスンは才能も裕福な実家も何も持ち合わせていないシングルマザーだ。そんな彼女が多くの視聴者に愛されたのは、どこにでもいそうな普通の女性ながら、優しい心性に加えて困難に立ち向かう勇気と明るさ、そして行動力をもっているからだろう。自らの運命の前でただ涙をこぼして男性にすがる旧来型のヒロインや、美しさと清純さのみが取り柄の女性とは一味も二味も違う。

 クムスンのように逆境の中でひたむきに生きる女性主人公のことを、韓国では‘キャンディ型キャラクター’と呼ぶ。「ラストダンスは私と一緒に」(2004)のチ・ウンス、「神様、お願い」(2005)のイ・チャギョン、「快傑春香」(2005)のソン・チュニャン、「華麗なる遺産」(2009)のコ・ウンソンなどもこの部類に入る。いずれも条件の良い男性と結ばれるというシンデレラストーリーにもなっており、‘キャンディレラ’と呼ばれたりもする。

 実は、私はこの‘キャンディ’が、日本の70年代の少女漫画『キャンディ笙・キャンディ』に由来するということを知らなかった。いや、正直にいえば、この漫画の存在すら知らなかった。調べてみると、私が高校生の頃に連載され、アニメにもなっていた。そればかりか韓国にも輸出され、大人気を博していたのだ。キャンディの語源を教えてくれた韓国の友人は、「この漫画の主題歌を知らない韓国人はいない」といいながら、私に「本当に日本で育ったの?」と怪しそうにいう。

(写真出典:(上)MBC「がんばれ!クムスン」HP、

(下)http://book.daum.net/)

(つづく)

カテゴリー:女たちの韓流

タグ:ドラマ / 韓流 / 山下英愛

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