2010.07.16 Fri
今回は『竹中恵美子が語る労働とジェンダー』2004(「青本」)の第1講縲恆謔R講をテキストに、(1)資本制経済のしくみとジェンダー、(2)「労働力の女性化」とジェンダー、をお話しいただきました。全般的な情勢の概観で広範囲にわたる内容でしたが、限られた時間の中でわかりやすく説明していただきました。詳細はテキストをご参照いただけたらいいのですが、講義のツボであると私が勝手に感じたところを、コーディネーターの立場を濫用して(笑)、独断でまとめさせていただきます。(1)分離と依存:資本制経済のしくみとジェンダー
まず資本主義における生産活動(=経済活動)と労働力の再生産活動(=人間の生命の生産と維持)の関係を概観しました。「青本」22頁に出てくる「物質的生活の資本制的範式」は、市場における利潤の形成が市場の外での人間の生命生産・維持に支えられていることを示しています。にもかかわらず従来の経済学は、もっぱら市場の内部を対象とすることによって発展してきたのであり、そのことがジェンダー・ブラインドで女性排除的な世界の見方に大きく貢献してきたと言えます。
資本主義商品経済社会に生きる私たちの社会の特徴は、何と言っても使用するためではなく売るためにモノを作ることです。商品とは売るために生産される財・サービスであり、そこでは「労働」とは商品の生産に他なりません。労働力の再生産は市場外の無償労働として主として女性に割り当てられました。労働力もまた商品であり、もっとも重要な商品ですが、その生産・再生産は、資本主義的家父長制によって女性の無償労働にまかされたわけです。「男は仕事、女は家庭」という性別分業は古い規範が生き残っているのではなく、新たに登場した産業資本主義に適合的なものとしてジェンダーが編成された結果であったと言えます。こうした近代的産業資本主義の発展は、近代国家によって全面的にサポートされてきました。法制度、倫理・道徳、公教育等の国家政策を通じて女性の家庭役割は規範として浸透していきました。女性の再生産機能は労働市場におけるハンディと見なされ、現実には多くの女性が支払われる労働市場においても働いていたにもかかわらず、市場における女性労働は軽視され、女性の第1の場であるとされた家庭における労働は労働とはみなされなかったというわけです。
(2)労働力の女性化とジェンダー
資本主義は一般に思われがちなように利潤追求のみを目的とした自由で価値中立的システムではなく、歴史的文化的社会的に条件づけられたシステムです。資本主義は必ずしも合理的であるとは言えず、また「合理」性の定義も社会依存的です。それゆえもちろん変化の途上にあります。
労働市場における女性労働の特徴は、水平的垂直的性別職務分離にあります。女性労働者は家庭役割の延長にある職域に、また下位職務に集中しています。家族的責任を負う者であることが労働市場での女性の地位を不利なものにしています。
70年代以降に顕著に進展してきた経済のグローバル化は国際的規模で不安定で低賃金の劣悪な条件で働く労働者を拡大し、そこに多くの女性が参入してきました。「労働力の女性化」と呼ばれる現象です。海外移転した工場での労働、産業構造の転換によって拡大したサービス業等を中心とする非正規雇用など、まさしく現代の「不自由な賃金労働」と言うべき労働形態が女性を巻き込んでいくことになります。それが主婦、あるいは将来結婚すべき存在として、一人前の生計を保障する必要はないとみなされる者の働き方であることは工業先進国においても同様です。途上国の生産拠点における文字通り自由を制限され管理された過酷な労働もまた、ジェンダー規範による女性の「従順」につけこんだ労働形態です。さらに福祉国家の危機とともに、有償の家事労働者、サービス労働者、ケア労働者としての女性の移動が増加し、先進工業国の公的サービス部門を担うという状況が展開しています。
NIDL(新国際分業)には、途上国の労働力の女性化が必要条件であり、その背景には従来の市場外における生存維持活動としての無償労働による生存手段の破壊があります。女性の移動の背景には工業先進国における労働力の女性化と少子高齢化による無償労働の不足があります。再生産労働の再編がどこまでも不自由な労働として国境を越えて女性たちに担われるのか、あるいはこの社会を「互助で結ばれた個人からなる労働力(人間)の再生産の共同体=社会的共同体へとつくり変える」ことがめざされるのかが問われています。
私の個人的感想を交えながら、勝手にまとめました。詳細はテキストを是非お読みください。WANのページから購入できます。
『竹中恵美子が語る労働とジェンダー』
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