2010.08.07 Sat
7月16日に大阪ドーンセンターで開催された、竹中恵美子さんのセミナーに参加させて頂きました。当日は夕方から天候が崩れてきてしまったのですが、雨にも負けず会場は満席。様々な年代の方々が竹中恵美子さんの講義を熱心に聞いておられました。
第3回目を迎えた今回のセミナーのテーマは、男女の賃金格差について。テキストである『竹中恵美子の女性労働研究50年――理論と運動の交流はどう紡がれたか』(通称:赤本)に沿った講義内容でした。
講義はまず、男女の賃金格差を論じる前提として、そもそも賃金というのはどのように決定されているのか、という賃金決定の基礎論から始まりました。現在、賃金というのは、①どの労働市場に属しているのか、さらに②企業がどのような賃金体系を取っているのか、の二段階で決定されています。そして、特に第一段階の労働市場レベルでは、労働力の売り手と買い手のバランス、労働組合が組織されているか否か、の2点が大きなポイントであると指摘されていました。 このような賃金決定の基礎論を押さえた上で、今回のテーマである男女の賃金格差について、1970年代までの状況を説明して頂きました。女性の賃金が男性のそれよりも低いのは、先ほどの賃金決定の二段階それぞれに要因があるとのこと。
まず第一の労働市場レベルでは、女性は単純・不熟練労働分野に集中させられ、労働力の売り手の方が多いという過当競争市場に位置付けられていること、そして、本来ならば企業と賃金交渉をする労働組合に女性が未組織であるケースが多いこと。第二の企業の賃金制度では、男性を稼ぎ手モデルとした世帯賃金が採用されていること、などのお話がありました。男女の同一労働同一賃金原則を確立するためには、企業内の賃金制度を改めるだけでなく、第一の段階でそもそも女性が男性と同一の労働市場に参入できていないという差別も考えなければならない、という指摘は非常に重要だと思いました。
私は労働問題については不勉強の身ではあったのですが、わかりやすくお話して頂いたおかげもあり、今回のセミナーは非常に興味深い内容でした。中でも、特に興味深いと思ったのが、1970年代までの賃金をめぐる動きは、今日の賃金体系に大きな影響を与え、またそれゆえに昨今の非正規労働や貧困問題にも繋がっているのだという点です。
戦後日本の賃金体系の基本型とされている「電産賃金体系」では、基本給は生活保障費と能力給、勤続給から成り立っています。これが、いわゆる日本の賃金の特殊性とよく言われる、右肩上がりの年功賃金体系です。しかし、戦前からもこのような右肩上がりの賃金体系というのは存在していた、とのこと。戦前の賃金体系は主に勤続年数に比例する勤続給が重視されていたところ、戦後は勤続給に代わって生活保障給が重視されるようになり、1970年代の高度経済成長期には、「賃金で生活保障をする」という考え方が広く浸透するようになったそうです。
セミナーの終盤では、コーディネート役の方々から、生活保障まで企業に依存しない生活をいかに構想していくか、という問題提起がなされました。印象的であったのが、この問題提起に対して、受講者の方から「企業に依存しない生活は想像できない」という趣旨の発言があったことです。生活保障まで企業に依存することが「当たり前」という考えが、広く社会に、人々の意識の内に浸透しているという現状を垣間見ることができた場面だったのではないでしょうか。確かに、勤めている企業によって生活保障の質が異なっていることや、そもそも正社員という地位に就けなかったり、その地位から一度でも滑り落ちてしまったりしたときに、セーフティネットが確保されていないことは、やはり問題であると言えるでしょう。
今回の第3回セミナーは、男女の賃金格差がいかにして生じてきたのかというテーマで、1970年代までの女性の労働を取り巻く歴史を講義して頂きました。70年代までの動きを押さえることで、そもそも生活保障とは誰が担うべきなのか、という問題を考えるよい機会になったのではないかと思います。セミナー中の講義やディスカッションを通じて、「諸個人のライフ・ステージの生活保障制度の確立」は男女同一労働同一賃金原則を実現するための前提である、という点を理解することができました。
カテゴリー:セミナー「竹中恵美子に学ぶ」 / シリーズ
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