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ちひろと私 ~ 一外国読者の声 ~ Giwa
2010.08.11 Wed
いわさきちひろの世界に惹かれ始めたのはデパートの年末恒例のカレンダー・フェアだった。大勢のカレンダーの中で彷徨っている間、瑞々しい鮮やかな色のかかった子どもの姿の絵が、目の端に飛び込んできた。何て可憐でやさしい絵だろう。カレンダーのページを繰り返しめくっているうちに、私はちひろの虜になった。
練馬のちひろ美術館にも行った。国の児童新聞のために取材しに行ったのだ。ちひろのアトリエや開放された庭と図書室を見学し、大人も子どもも楽しめる美術館を隅から隅まで歩き、私なりの訪問記を練りあげた。享年55歳のちひろはあまりにも短い人生を送ったが、夥しい量の作品をこの世に残したのはその時に知った。また、水彩画と水墨画を融和した独特の画風を確立し、画家の新境地を迎えたのは彼女が50代に入ってからということにも感銘を受けた。
ちひろ作品の中に、私が一番印象に残ったのは1973年に出版された『戦火のなかの子どもたち』である。彼女はこれまでの多彩な色遣いを覆したかのように、モノクロと真っ赤の絵具だけで、第二次世界大戦やベトナム戦争の被害者であった子どもたちの姿を鮮烈に描いている。「赤いシクラメンの花のなかに/いつもゆれていた/わたしのちいさなおともだち。赤いシクラメンの花が/ちってしまっても/やっぱりきえない/わたしの こころのおともだち。」というちひろの言葉は、切ない。『戦火のなかの子どもたち』はちひろが世界中の子どもたちの真の幸せを願い、私たちに残した遺言書のような作品ともいえるだろう。
45歳でS女子大の児童文学大学院の門を叩いた私である。それまでも国の出版社の依頼で日本の児童文学作品を翻訳してきた。しかし、私の仕事に対する消極的な姿勢は二年間の勉強生活の末に一変された。この道をこのままに進んでいってもいいのか、何か私にしかできないことはないのか、と自分を問うようになった。今年ついに50歳に突入する私。「半百の歳」(中国熟語)の重みに押しつぶされないように、充実かつ悔いのない残りの人生を送るのは自分自身に課す課題なのだ。ちひろは遠い世界の師だが、彼女の晩年に発した光と熱は私を照らし続けている。今日もちひろから生きるヒントと勇気をいただいているのだ。
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