エッセイ

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フェミニスト文化運動体「IF」(韓国)

2010.08.27 Fri

kimsin

▲キムシン ・ミョンスクさん

韓国のフェミニストウェブマガジン「IF」編集者 金申明淑(キムシン・ミョンスク)さんWANがインタビュー。金申さんは、9.12WANリニューアルイベントの基調講演者です。

*ミスコリアコンテストを粉砕!「笑おう、ひっくり返そう、遊ぼう」のスピリットで。

WAN:「IF」を日本の女性たちにご紹介ください。

IF金申さん: 私たち「IF」はフェミニスト文化運動団体として1997年、韓国最初のフェミニズム雑誌「IF」(季刊)を発刊し出発しました。犠牲者としての女性、保護の対象としての女性のイメージが強かった既存の女性運動や団体とは違って、「IF」は「笑おう、ひっくり返そう、遊ぼう」というスピリットと「女性の欲望を知っている雑誌」というモットーを前面に掲げ、攻撃的で挑発的な活動スタイルで韓国社会にジェンダー問題を提起してきました。その活動スタイルは新鮮で強烈な印象を与え、多くの人々の注目を集めました。

「フェスティバルで踊る女たち」

▲「フェスティバルで踊る女たち」

活動開始の翌年には、ミスコリア大会のTV放送の生中継に反対して「アンチミスコリアフェスティバル」を開き、このことで「IF」は、より広く知られるようになりました。また、このフェスティバルは韓国での初めてのフェミニズムフェスティバルとして強い印象を残し、以降、女性運動だけではなく市民運動にも影響を及ぼして新しい社会運動のスタイルを示したといえます。このフェスティバルは毎年開催され韓国の代表的なフェミニズム文化祭となり、2002年にはミスコリア大会のTV生放送が中断されることになりました。

しかし、現在、季刊誌「IF」はなくなり(2006年終刊)、フェスティバルも昨年までは開催されましたが今年は開かれませんでした。財政的な問題が大きかったことと、「IF」内での行き詰まりを感じて新たな変化を模索する必要性があったからでした。

*サイトには週7万人の訪問者
WAN:どのようないきさつ・きっかけでwebでの発信を始めたのですか?

IF金申さん: フェミニズム雑誌「IF」をオンラインに移そうとする意見はかなり前から話し合っていました。というのは、季刊誌であるためにその 時々の話題に素早く対応するのが不可能だったことや、めまぐるしく変化する社会の流れに合わないということをみな感じていたからです。

IF終刊号

▲IF終刊号

そして、読者たちとの直接的な交流ができないことも大きな理由でました。そのなかで私たち「IF」は、取り残された島のように世界から孤立していくのではないかという憂慮が広まりましたが、内部事情から、手を上げて変化を主導する人もおらず、これといった決定的な契機もなかったために話は進まず、終刊という事態を招きました。そのことがあってから事の重大さに気がつき、「オンラインに移そう」と「IF」の方向性がはっきりと決定されました。

しかし、終刊を経験した「IF」は、モチベーションの低下や人材ネットワークの弱体化に苦しめられ、すぐにオンライン上に移動させることは困難でした。2年間の苦難の道を歩んだあと、2008年10月から「オンラインフェミニストレターIF」を毎週8千人ほどの方々に送り始めました。最初は、いくつかのエッセイと、「IF」の行事を知らせる程度の内容でしたが、これが発展していって徐々に読者数が増えました。そして、今年の9月からはホームページを改編して「フェミニストウェブジンIF」としてアップグレードされました。

読者数が増えた理由には、影響力のあるインターネット新聞「オーマイニュース」に「フェミニストレターIF」のエッセイなどをブログ形式で提供したことがあげられます。新聞「オーマイニュース」側が「フェミニストレターIF」の優れたエッセイを週5回ほどメインページで紹介してくれたので、それを見た読者たちが「IF」のホームページを訪問することになりました。現在、新聞「オーマイニュース」にある「IF」のブログだけでも、多いときは週7万人、平均的に2-3万人ほどが訪問しています。

フェミニストウェブマガジンIF

IFホームページ

▲IFホームページ

*企業からの後援も。ただいま、後援会員募集中!
WAN:IFはどんな人が、どのようなかたちで運営しているのですか?

IF金申さん: 現在「 IF」は社団法人の形で運営されています。共同代表2名と10名ほどの理事がいます。財政は、理事会の会費と後援会員からの後援金がありますが、大半は企業からの後援に依存しています。しかし、現在のような構成だと問題になる要素がありますので、これからは後援会の会員を大幅に拡充して財政を安定させつつ組織を拡張するよう考えています。今後1年間内に月1万ウォン程度を会費として払える後援会員を500名ほど募集しようとしているところです。
「フェミニストウェブジンIF」は、財政上の制限から、編集員1名、編集者1名と小規模ですが、これからボランティアや編集要員、客員記者を募集する予定です。

*リアルタイムでの発信、活発な論争
WAN:webでの発信の利点は何ですか?また、苦労することがありますか?具体的な例があれば、教えてください。

IF金申さん:オフラインで季刊雑誌をつくってからオンライン雑誌をつくってみて確かにオンラインの方にいろんな利点があることに気がつきました。

まず、利点として、制作それ自体がとても簡単なことと、週刊であるために社会的話題に素早く対応できることがあります。

また、読者たちの反応もコメントを通じてリアルタイムで確認することができることと、映像やオーディオファイルなどを活用してより多彩で生々しいコミュニケーションができること、オフライン雑誌とは違ってオンライン雑誌はフリー&オープンであるために以前よりずっと多くの読者たちと出会えることがあります。そして、女性だけでなく男性も自由に参加することができ、女性・男性間で熱い論争が繰り広げられる場にもなります。そうしたコメント論争はそれ自体が一つのいいコンテンツにもなりえます。

難しい点は、無料で提供されるオンラインウェブジンであるために利益を期待することができないということです。少なからず、毎月、人件費と原稿料の支出が生じますが、ウェブジンを通じての収益は、「オーマイニュース」からの掲載料のみです。読者が増えると、「IF」のホームページに広告を掲載することも考えていますが、一番理想的だと考えているのは、やはり後援会の会員からの会費や寄付を基盤とした運営です。

フェスティバル垂幕

▲フェスティバル垂幕

*フェミニストスピリットで女性のエンパワーメントを!
WAN:今後どのような発展をめざしていますか?
IF金申さん:「フェミニストウェブジンIF」を韓国の代表的なオンラインフェミニズム媒体にすることです。
そのために他のオンラインフェミニズム媒体とは違った独自性がもとめられ、「IF」だけがもつ独自性として、大きく二つの目標を持っています。
ひとつは、韓国社会の中で「IF」がもつ挑発的ではつらつとした愉快なイメージに合うフェミニズムコンテンツを次々に生産していくことと、もうひとつはフェミニストスピリットの一つとして女神のスピリチュアリティ(Goddess spirituality)を紹介し伝播していくことです。言い換えれば、家父長制社会に対する分析や批判、オルタナティブの提示と共に、傷と苦痛を癒し、自己のエンパワメントを図ることを意味します。現在、西洋社会でその影響力を増している女神のスピリチュアリティは既存のフェミニズム運動を忌避する女性たちにも訴えかけることができますし、女性運動の発展に大きな可能性を潜めている魅力的な分野であり主題だと考えています。
「IF」は今年、フェスティバルを開催しなかった代わりに、女神のスピチュアリティを歌うアメリカの有名な歌手ジェニファー・ベレザン(Jennifer Berezan)を招きコンサートを開き、大きく盛り上がりました。これからは、女神のスピリチュアリティ、治癒、自分の中にある力探し、女神巡礼など様々な行事を持続的に開催しながら「IF」の人たち、人々のネットワークを拡張していく計画を持っています。また、それらと共に、現在は中断されている出版活動も再開することも望んでいます。
現在の計画は以上のようなものです。その後は、四方に枝分かれしていくオンラインの特徴を生かすことです。つまり、「IF」を基点とするフェミニズム文化運動ネットワークの生命力に任せても良いのではないかと思っています。ある程度の基盤をつくっておくと限りなく拡張していくクモの巣のように、自ら発展していくことが分かっていますし、そうなるはずであると信じています。

*日本の女性たちへ:オンラインでつながるフェミニズム
WAN:9月12日はWANのリニューアルイベントに来ていただく予定で、どうもありがとうございます。来日を前に、日本の女性たちに一言 メッセージをお願いします。

IF金申さん:「IF」に興味をもって招待してくださったことを心からありがたく思っています。フェミニズムとはもともと国家の領域に限られず国境を越え、ひいてはすべての境界を越えて動きながら新しい世界を描いていく思想・運動です。

全世界がオンラインを通じて一つになっていく中で、日本のフェミニストの方々に出会って「IF」をご紹介させていただけることはとても幸運なことであり、光栄なことであると思います。今回の出会いを通じて可能ならばお互いにコンテンツを共有し合えることや、フェミニズム運動を共にできることを願っています。

もっとも、私たちがこれから力点をおこうとする女神スピリチュアリティ運動の側面では日本のフェミニストの方々に希望を抱いています。女神の伝統がほとんど消滅された韓国とは異なって日本は天照など生きている女神伝統がはっきりと残っているからです。その面で中国の豊富な女神資源も言うまでもないことだと思います。

韓・中・日3国のフェミニストの方々が女神スピリチュアリティ運動を広げながらそれぞれの国の政治社会的フェミニズム運動にも連帯できる未来、考えただけでも胸がいっぱいです。

金申明淑さん、どうもありがとうございました!金申さん登場の9月12日のWANイベントお楽しみに。
なお、金申明淑さんのプロフィールは以下の通りです。
<略歴>
1.女性学修士(ソウル大学校大学院)。
2.フェミニズム活動と市民社会団体運動をする。
3.東亜日報記者(メージャー 新聞社の一つ)に勤める。
4.フェミニスト雑誌 「イプ」の編集委員と編集委員長に勤める。
5.2003年~2005年 KBS1(TV) 〈メディアフォーカス〉進行、2006年 SBS ラジオFM(103.5MHz)の<’SBS 展望台>進行。

<著書>
1.『金申明淑の選択- イフ女性経験叢書』(イフ, 2007.06.25)
2.『許蘭雪軒 1, 2』 (図書出版グムト, 1999.06.01)
3.『ミスコリア大会を爆破しなさい』 (イフ, 1999.05.01)
4.『悪い女が成功する』 (東亜日報社, 1996.08.27)

(聞き手:WAN 岡野・牟田)

カテゴリー:団体特集 / シリーズ

タグ:韓国 / フェミニスト

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