2010.09.19 Sun
今回のセミナーのメインテーマは、「男女賃金格差について」であった。日本の男女賃金格差は、2009年現在、69.8%である(所定内給与額、一般労働者[=短時間労働者以外の労働者]、男性賃金=100、「賃金構造基本統計調査」より)。セミナー内容の対象時期であった1970年代までを振り返ると、当時の男女賃金格差はおおよそ50%台半ばで推移していたから、この50余年間で一般労働者の男女賃金格差は縮小していたと見える。だが、この数値は非正規雇用者などの短時間労働者の賃金を含めないため、これらの雇用者を加えれば男女間の賃金格差問題はより深刻である。また先進諸国と比べても大きいこの格差を日本が未だ改善できずにいるという事実もある。
セミナーでは男女賃金格差について3つの柱から検討が行われ、それらは、「1.賃金決定の基礎論」「2.なぜ日本の男女賃金格差は大きいのか(1970年代まで)」「3.男女同一労働同一賃金原則を実現するための課題」であった。セミナー・テキスト『竹中恵美子の女性労働研究50年』(ドメス出版、2009年)ではわずか22頁(23-44頁)にあたる部分ではあるが、そこに込められた内容について、当日の議論とあわせ、濃縮された議論が展開された。
当日、私はセミナーのコーディネーターを務めさせていただいた。今後、予定される議論や私たち自身が考えるべき課題への橋渡しとして、セミナー内容を踏まえつつ、おさえておきたい論点について私自身の考えを述べておこう。
まず1つめは、セミナーの柱であった「1.賃金決定の基礎論」と「2.なぜ日本の男女賃金格差は大きいのか」に関連し、賃金決定における労働組合の役割をどのように考えるかである。労働力という特殊な商品を売買する労働市場は労働組合や使用者団体などによって組織された市場である。そこでは、労働組合が賃金決定(決め方・額)に一定程度の役割を果たし、広義の労働市場では例えば春闘を通じてベースアップの相場を形成し、狭義の労働市場である企業内労働市場では賃金制度や賃金原資について、対使用者との交渉を担ってきた。
だが、これらのことは、半面で、賃金決定に対して、労働組合の要求内容が重要な意味をもっていたということを意味する。春闘では賃金総額の引き上げをしても配分については手つかずであるという点や、家族賃金モデルを前提とするのか否か、男女賃金格差を導く賃金制度の設計をしてきたのか否か、生活保障の費用を賃金として企業に求めるのか否か、などである。労働組合組織率が低下し、一方で未組織労働者が相対的に増加する状況のもとで、男女賃金格差の解消に向けた労働組合の役割や賃金決定の仕組づくりがどのような方向にあるのかを考えていく必要がある。
2つめの論点は、職能資格や配置の仕組、長期雇用を可能とする就業継続の制度を把握することについてである。賃金は企業の雇用管理と密接であるから、この論点は極めて重要である。職位や配置における性別による偏りの解消や、就業継続を可能にする仕組づくりが不可欠であり、使用者側がどのような戦略をたててきたのかを把握する必要もある。これらの把握は、前回までのセミナーで取り上げられた「性別職務分離」「女性が担う無償の家事労働」「グローバル化での『労働力の女性化』の特質」、そして国連/NGO/EUが進める「ジェンダー平等社会への理論」についての理解を深めることにもつながっていく。
さらに、「3.男女同一労働同一賃金原則を実現するための課題」に関し、3つめの論点としてあげたいのは、男女賃金格差が1970年代以降どのような変遷をたどり、今日まで継続してきているのかを、経営戦略、社会保障制度、法制度などの文脈とともに理解しながら、格差解消の具体的諸策とその意義を明らかにすることである。竹中氏が、男女賃金格差の解消の課題として掲げた、「横断賃率の実現」「実質的な最低賃金制度の確立」「男女同一労働同一賃金原則を実現する方法」「企業内賃金制度の改革」の当時の状況を知り、これらに関わる課題が今日、何ゆえに拒まれているのかを確認していきたい。
これらの論点を踏まえながら、初回セミナーで提起された「新しいグローバルスタンダードとしての21世紀福祉国家」をどのようにデザインしていくかについて、今後の議論を通じて参加者の皆さんと共に考えていきたい。
カテゴリー:セミナー「竹中恵美子に学ぶ」 / シリーズ
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