エッセイ

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日韓文化交流の新時代を探る 中西豊子

2010.10.21 Thu

今年は韓国併合100年、光州民主化運動から30周年という。日韓の歴史を考えると、お互いの複雑な思いを払拭するのは容易なことではない。

朝鮮戦争を契機に産業が息を吹き返した日本は、アジアの他の国に先駆けて経済大国へと歩みだした。するとたちまち何の反省もなく「キーセン観光」へと繰り出した男性たち。これでは日本に対する批判や反感が出るのは当然のことだろう。当時「アジアと女性解放」というミニコミを発行していた「アジアの女たちの会」では、さっそく「買春観光を許すな!」を特集している。ときの朴政権はキーセン観光を奨励したというから厄介で複雑だ。

韓国では、反日をかかげてきた軍事政権が続く間、文化交流は固く閉ざされていた。厳しく長い民主化運動の末に、民主政権を勝ち取った韓国の民衆。そして韓国と日本の間に、漸く文化交流ができるようになった。

近くて遠い国と言われてきた隣国からやってきた1本のドラマがこんなに日本人の意識を変え、日韓交流に劇的な変化をもたらすとはだれが想像しただろうか。

「冬のソナタ」がひき起こした7年前の韓流ブームが引き金になって、今では、新聞のテレビ番組欄を見ると必ず韓流ドラマが何本も見つかる。現在も日本全国で放映中の韓流ドラマは30本を超えるというから驚きだ。そして日韓の間にポップカルチャーが相互に乗り入れ、映画、演劇、ミュージカル、音楽コンサートなど両国で、お互いに受け入れられ人気を博している。

以前から日本のコミックやアニメは、韓国で人気があったそうだが、今では日本の新刊がソウルの書店でベストセラーになり、外国小説のほかに日本小説のコーナーが設けられるほどだという。村上春樹、東野圭吾、吉本ばなな、宮部みゆきなど日本の人気作家が売れ筋だとか。町には日本アニメのコスプレを着て歩く若者も出現しているという。

波及効果はそればかりではない。日本で、中国や台湾のテレビドラマや映画が急増している。

そもそも「冬のソナタ」がNHKで放映されるに至るまでには、韓国ドラマがお茶の間に入ってくる下地ができつつあった。1998年の金大中大統領就任で文化交流が盛んになったこと、2002年サッカー・ワールドカップ日韓共催、映画「シュリ」や「JSA」の日本での大ヒットなど、ドラマ放映の機が熟していたといえる。そこへ、韓国で大ヒットし、主演男優賞、主演女優賞はじめ各種の賞を受賞した良質のドラマが放映されたというわけだ。

このドラマは、日本人が漠然と偏見をもって思い描いていた韓国のイメージを覆すのに十分だった。美しいスキー場や湖畔の風景、洒落たレストランやバー、主人公たちのプロポーションやファッション、そればかりではない。主演のペ・ヨンジュンさんは、今までに見たことのない男性像を見せてくれた。あんなに美しく泣く男を私は見たことがなかった。彼が日本女性から絶大な人気を得たのを見て、日韓双方の男性評論家は、年配女性たちにノスタルジイを感じさせているのではないかと言ったが、そうじゃない。強調するが、主人公の性格も含めて、日本では決して見ることのできなかった新鮮な男性像だったのだ。その衝撃は大きかった。

こうして堰を切ったように韓流映画やドラマが日本に入り、韓国でも日本の映画やドラマが上映され、文化交流の潮流ができてきた。韓国では映画産業を保護し、映画振興策がとられてきたことも大きかったと思う。こうした背景を探り、これからの日韓関係を考える本が相次いで出されている。最近出た本2冊をご紹介しよう。

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.『韓流がつたえる現代韓国~「初恋」からノ・ムヒョンの死まで』イ・ヨンチェ著(梨の木舎2010年)

ドラマや映画を通して透けて見える韓国の国内事情、両国の国民感情などを大変判りやすく解説している。もちろん、映画やドラマはフィクションだが、国民の生の姿が映し出されるのも事実だ。そこには生々しい政治や経済、生活環境、家族関係、国民感情が反映される。

朝鮮戦争、徴兵制度、分断国家の悲劇、軍事政権と民主化運動など常に重い課題を持つ韓国では、ドラマチックな題材に事欠かない。そしてそんな時代を過ごした監督たちの抵抗や反骨の思いを伝える映画が作られ、感動を呼んできた。

韓国で起こっていた民主化運動の真相も、日本ではよく理解されたとは言えず、大事なことが見過ごされてきたような気がする。光州事件のときも、その真相はよく判らないという印象だった。私も映画を通してはじめて、光州事件、朴大統領暗殺事件などお隣の国の大きな事件の真相を知ることができた。もちろん脚色されているにしても、市民の視点で描かれる映画は、報道されなかったもう一つの側面を伝えてくれる。

韓国では朝鮮戦争の苦難を乗り越えたあと、クーデターで奪取された軍事政権の中、国民が粘り強く民主化運動を続けてきた。漸く成し遂げた本当の意味での民主政権は、キム・デジュンン大統領、ノ・ムヒョン大統領時代、その間わずか10年だった。国民の期待も大きかったが故に、期待に即応しきれない政府、せっかくの民主政権を失墜させてしまったのも国民の選択だった。その辺りの事情もこの本では振り返る。自殺に追い込まれてしまった庶民出身のノ・ムヒョン大統領を惜しむ声が今、少なくないという。

何十年もの間培われた保守主義の牙城を切り開くだけでも難しい中、国民の性急な要望を受け止め切れなかったのか。失点を見つけて政権を終わらせてしまった日本の細川政権の失墜とよく似ているなと思う。保守回帰の現政権は、すでに政権に批判的なメディアに圧力をかけたという。日本の民主党政権にも、国民はせっかちに求めすぎてはいないかという気がしなくもない。

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.『「韓流」と「日流」~文化から読み解く日韓新時代』クオン・ヨンソク著(NHKブックス2010年)

韓国では、軍事政権下で反共、反日ナショナリズムが強調されてきたし、一方の日本では、戦後も韓国人に対する蔑視や差別があり、こうした歴史によって刻まれたお互いの意識の差と戦後教育で生じてきた差、その辺りの事情が詳しく書かれている。

著者は、今ようやく両国の若い世代からわだかまりを超えて相互理解の実を結びつつあると言う。もう「韓流」を卒業して「韓国ブランド力」で売っていいのではと述べている。

お互いの感情と向き合い、しっかり検証して新しい歴史観を作っていこうとするこれらの本に見られる姿勢は、未来に向けて日韓ともに大切だと思う。








カテゴリー:WAN的韓流 / シリーズ

タグ:韓国 / 韓流 / 中西豊子