2010.11.23 Tue
彫刻家イサム・ノグチを育てた母、レオニー・ギルモアの波乱に満ちた生涯を描く映画『レオニー』。レオニーは非婚のシングルマザーとして自らの手で運命を切り開いていく勇敢な女性です。
「レオニーという人物を知った時、この女性を描きたいという強い衝動を覚えた」という松井久子監督と、
「レオニーという女性を松井監督が救い出した」と話す上野千鶴子さんの対談が、『婦人公論』誌で行われました。
レオニーという女性について、レオニーを取りまく男性について…。辛口トークが炸裂!
『婦人公論』編集部のご厚意で、記事の冒頭をご紹介します。
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『婦人公論』12月7日号
http://www.fujinkoron.jp/
100年前の日本でシングルマザーを貫いたアメリカ人女性
『イサム・ノグチの母に魅せられて』
対談 上野千鶴子(東京大学大学院教授)×松井久子(映画監督)
上野 『レオニー』を拝見してとても魅了されました。そもそも、イサム・ノグチの母がこういう女性であったということを知りませんでした。
松井 私も知らなかったんですよ。ドウス昌代さんの書かれたイサムの評伝(『イサム・ノグチ 宿命の越境者』)を読んだ瞬間に、「あ、この人を映画にしたい!」と直感的に思ったのです。
上野 アメリカ女性で、詩人のヨネ・ノグチ(野口米次郎)と関係して、非婚でイサムを産み、子どもを連れて単身日本にやってくる。そのうえ、その異国の地でシングルマザーとして父親違いの2人目の子どもを産み、生き抜いたという大変勇気のある女性ですね。松井さんが共感されたのは、ご自身の体験とオーバーラップするところがあったからでは、と推察するのですが。
松井 私自身は結婚して27歳で息子を産んで、彼が5歳の時に離婚して、それから仕事をしながら子どもを育てました。でも、そういう自分とレオニーがダブるというよりも、「この人生をもっと多くの人が知るべきだ」と思ったのです。認知症をテーマにした過去の2本の映画は、社会的ニーズがあるというプロデューサー的感覚で作ったので、自分を出していないな、ズルいなという思いはありました。だから原作を読んだ時に、私の体に溜まった60年の軌跡を作品に投影できるんじゃないかと思ったのかもしれません。
上野 ドウス昌代さんの評伝ではレオニーは脇役に過ぎません。それをすくい出したのは松井さんの目。この映画がなければ、イサムの偉大さは誰もが認めても、その母については知られないままだったと思います。
松井 私は作り手ですが女性ですので、イサムについては評伝を読めば十分。映画にしたいともできるとも思わなかった。でも、この母ならできると思いました。上野さんの言われるように、シナリオを書いてるうちに、どんどん自分を重ねていってしまいました。
上野 男と女ではレオニーに対する共感の度合いが違うと思います。時代が時代でしょ。この人が非婚であろうとなかろうと、言葉もできない極東の国に男一人を頼ってやって来るのは、〝女の依存〟の証明ではなく〝女の蛮勇〟の証明です。私は映画を観ながら、敗戦直後に太平洋を渡った戦争花嫁たちの勇気を思い出しました。よほどの強さがなければそんなことはできない。加えて、男の描き方も面白かったですね。ヨネはまったく頼りにならない、卑怯で未練がましい男として描かれていて。
松井 ヨネを主人公に映画を作ったら、男の側からの作品も作れたでしょうが、私は女性監督です。女性の役割が刺身のツマ的であったり、男にとって都合よく描かれた映画は男性監督によっていっぱい作られているわけだから。(笑)
(構成/島崎今日子)
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続きはぜひ、『婦人公論』12月7日号(発売中)でお楽しみください!
『レオニー』は2010年11月20日より全国公開中。
公式サイト
http://leoniethemovie.com/
関連情報:
『レオニー』映画評
http://wan.or.jp/reading/?p=731
『マイレオニーブログ』
http://blog.myleonie.com/
カテゴリー:新作映画評・エッセイ