2010.12.12 Sun
私がドラマ講座に出会ったのは、友人の米山美津子さんが企画した、「ドラマを通して知る:韓国社会~ドラマを通して実際の韓国社会について学び理解を深め、ドラマ談義に花を咲かせてみませんか?」というタイトルで開催された講座であった(2009年10月21日から11月25日までの週1回の5回シリーズ)。
今まで韓国ドラマは見たこともなく、俳優など全く知らない状態で受講したが、すっかり講座を通してドラマに魅せられてしまった。長いドラマをピックアップして、数分画面に映しては、ドラマの解説をする講師(山下英愛さん)の優しい語り口調から、これまで学んでこられたこと、運動されてきたことがしっかりと私の心に響いた。日本のドラマとどう違うのか?どうしてこんなにドラマに引き込まれるのか?という思いも湧き起こり、不思議な世界に来たかのような錯覚に陥ってしまった。
その後、<日韓文化交流の現在>(2010年1月11日)でも山下さんが「韓国ドラマの受容とジェンダー」という題で発表されるというので、聞きにいった。内容は、①日本の韓流ドラマブームに関するジェンダーの視点からの研究動向、②フェミニズムの脈絡で韓流を考えるということ、③韓流ドラマを通じた韓国の家父長的文化の受容、であった。この時は日本での韓流ブームをめぐるジェンダー論的な研究を主に話された。遠く岡山から参加した韓流ファンもいて驚いた。私は益々山下英愛さんの、そして韓国ドラマのファンになってしまった。
最初にドラマ講座を聞いた時、来年には必ず、私が住む茨木でもドラマ講座を企画しよう!と決意していたので、即実行に移すことにした。私が属している「ジェンダーフリーネット茨木」の主催で、茨木市立男女共生センターローズWAMを会場に、「韓国ドラマを楽しむ~女性たちの生き方」と題し、二回にわたって山下さんに話していただいた。第一回目は、「がんばれクムスン」(2005年)新しい家族像―家族をめぐる世代間の葛藤―で、韓国女性部主催の男女平等放送賞の大賞を受賞したドラマだった。このドラマの見どころ、戸主制の問題、子どもの姓、韓国における姓の考え方などついて、パワーポイントを使いながら解説された。短く編集されたドラマを視聴するのだが、ストーリーもよくわかり、クライマックスでは思わず涙する参加者たちもいた。
2回目は「彼女の家」(2001年)仕事と結婚―働く女性の結婚と家事労働―だった。ここでは、主人公男女の仕事と結婚をめぐる葛藤、恋愛と結婚のジェンダーの問題などを中心に話された。統計なども提示されながら、韓国での結婚後の仕事と家事に関する現状を語られた。ドラマに映し出される女性に対するさまざまな偏見も指摘され、ドラマには多くの問題点があることもわかった。
参加者からの感想には、「大すきな韓ドラの背景が理解でき、なるほど納得、と思えることがたくさんあったので、再度ドラマを見直したくなった」、「戸主制度の廃止について知りたかったので、良く分かってよかった。私たち日本の在り方を相対化できたこともよかった。家族は同じ姓でなければ、とかいうことが作りごと、幻想であることがよくわかる」、「一度韓国に行って、女たちの活動をみたい気がした」など、様々なものがあった。
今年の9月に始まった<市民のための人権大学院:じんけんSCHOLA>の 「韓国ドラマで学ぶ女性学」のコース1も受講した。「講座のねらい」には、最近の日本では大量の韓国ドラマが商業ベースで輸入・放映されているけれど、このような現象を単なる娯楽として受動的に消費するのではなく、韓国社会に対する理解やジェンダー・人権意識を高めることにつなげたい、と書かれてあり、この趣旨に賛同したのだった。夜の講座(午後7時~9時)は大変であったが、山下さんの一生懸命な姿勢に励まされ、頑張ることができた。
ここに参加した感想を少し書いておこう。まず、参加者の多くが韓国通であり、大学の教員も数人いた。そのせいか質問にも奥深いものがあった。たとえば、女性学研究者は韓国ドラマを分析しないのか? 権力と暴力が家族や社会にどのように組み込まれているのか? 家族と社会のジェンダーとの結びつきは? 人気の要因をジェンダーの視点で考えるということはどういうことか?などなどであった。女性学的にドラマを分析するということの重要さがおのずと伝わってきた。
第二回で取り上げられた「初恋」は、なんといっても「冬ソナ」で有名になった、ペ・ヨンジュンの若い姿が印象的だったが、演技はどうかな?と思ってしまった。韓国では歴代最高の視聴率(65.8%)を記録したドラマだ。タイトルから内容を想像しそうだけれど、家族の愛・父と息子の関係・兄と弟の愛・強い友情・貧富の問題・格差社会・暴力と権力の結びつきなど、あらゆる問題を提起した内容のドラマであった。やっぱり韓国ドラマがいい。また、このドラマには暴力シーンがたくさんあるらしいが、山下さんの短縮版ではカットしたとのことだった。
第五回目の「波濤」は、一番好きなドラマとなった。女性と貞操というタイトルがついていたが、女性に対する、男社会のエゴ・韓国の家父長制社会の象徴のようなもので、女はこうあるべきだとか、貞淑な女性を求め、汚れた女性は必要ないとする男性たち。男子血統主義の血筋中心意識。息子の結婚に猛反対していた主人公の母親が自ら、ひとりの男性と愛し合うことにより、全てのことを理解していく過程が描かれているようだった。相手の男性も彼女を思いやり、子育てが終わった女性の真剣な愛がある。二人の愛情が画面いっぱいに溢れるラストシーンは、何度見ても、見あきることはないだろう。ユン社長(相手役)のような男性が韓国にも日本にもいるのだろうか?こんな男性に逢ってみたいものだと密かに願った。
初めてドラマ講座に参加した日からもう1年が過ぎた。最近、また箕面市立西南公民館でドラマ講座(四回シリーズ)が始まった。山下さんのドラマ講座では、韓国社会の歴史・文化・人権とジェンダー・女性学を、ドラマを通してやさしく、深く学ぶことができる。これまでになかった試みであり、ひとつのジャンルを確立されたのではないかと私は確信している。韓国ドラマファンはもちろん、ファンでない方にもぜひお薦めしたい。
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