2011.01.03 Mon
12月17日、年内最後の竹中セミナーが開かれました。第7回を迎えた今回のタイトルは、「画期となる国連『北京女性会議』と『行動綱領』――いまなぜアンペイド・ワーク(UW)か」。
(1)UWが注目されるようになった背景、(2)UWに関する世界での政策的取り組み、(3)日本での取り組みの現状とその問題点、の3点について講義をして頂きました。
(1)UWが注目されるようになった背景
アンペイド・ワーク(UW)とは無償労働、無収入労働、非賃金労働とも呼ばれており、主に家庭内で行われている家事などの労働のことを指します。
UWは次の3つの出来事により注目されるようになりました。一つめは、男女雇用機会均等法など労働市場での男女不平等を解消するための規則が強くなっているにもかかわらず、男女平等が実現できていないという実態です。UWが性役割分業として女性に担わされている限り、「機会の平等」だけでは限界があることが明らかになりました。
二つめは、社会保障に関する不平等の問題です。社会保障の中心である社会保険では家族単位制がとられ、特に既婚女性の給付権は、夫である配偶者の給付権に付加するという形にとどまってきました。
そして最後に、80年代以降の少子高齢化の進展する中、女性の担うケア・ワークへ社会的関心が集まっていることも、UWが注目される背景となっています。
(2)UWに関する世界的な政策的取り組み
国連はUWの問題に強い関心を持ってきました。1975年の「国際女性年世界会議」では、初めてUWが重要な政策的・運動的課題として位置づけられました。その後、1980年にはUWに関するILOの発表があり、1985年のナイロビ「世界女性会議」では、将来戦略として女性のUWの貢献を測定する具体的措置の必要性が提起されました。
1995年の北京「世界女性会議」では、UWを貨幣価値に換算して数量化し、GDPのサテライト(補助)勘定を作成するよう各国政府に求める行動綱領が採択されるに至りました。UWは経済活動の一環であるという認識にたち、男女ともに担うことの意義を主張する画期的な内容でした。
北京「世界女性会議」では、家事労働を行った時間を計り、それを貨幣額で算出するというUWの測定方法が提起されました。このように、家事に携わった時間を計測するという「時間使用調査」の提起は非常に意義のあるものでした。従来は「仕事」か「余暇」かという二文法だった「時間使用調査」が、「仕事」と「余暇」、さらに「家事」という三文法へと変更することになりました。このことは、「男性の経験の理論化」であった調査基準に対してジェンダーの視点を導入するとともに、男女の賃金格差の背景には、PWとUWとの男女格差が隠されているという視点をより明確にしました。
一方、EU議会・女性権利委員会でも1993年に「女性の非賃金活動の評価に関する報告」が公表されています。カップルではなく個人に課税をすること、男性がUWを担えるようにするためだけでなく、UWを担うために長時間働けない女性を有償労働へ参入させるための労働時間短縮を呼びかけていること、さらに、UWに従事してきた人の再就職を容易にするための諸施策として、職業訓練の供給のみならず、家庭内で取得された能力を社会的に評価していくこと、などの項目を含む先進的な提言がなされています。
これらの取り組みの蓄積により、今日では男女がそれぞれ個として自立し、かつ、ケアを共有することができるよう、貨幣や時間を含めた資源を再配分する制度・政策の確立という方向が、グローバル・スタンダードとなっています。
(3)日本での取り組みの現状と問題点
日本では、経済企画庁が『無償労働の貨幣評価についての報告』を発表し(1997年)、UWの90%を女性が担っていること、そして、諸外国と比べてUWのGDPに占める割合が異常に低い(日本:21.6%、諸外国:60.7%)ということが明らかになりました。
このような対GDP割合の低さは、実は日本国内における女性の有償労働(PW)の賃金の低さに由来しています。日本ではUWの貨幣評価方法として、
一人あたりの無償労働時間×時間当たり賃金×人口
という計算式が用いられており、さらに「時間当たり賃金」としていずれの統計を利用するかで大きく二つの計算式が使用されています。性別、年代別の産業計の平均賃金を用いる機会費用法、家事に類似したサービスの従事者の賃金を用いる代替費用法、の2種類です。
しかしながら、いずれの計算式を用いても、そもそも労働市場における女性の賃金が極端に低いために、UWの貨幣評価も極めて低い値しか出ないという問題点があるのです。
最後に、日本での取り組みの問題点として、本来、女性が無償労働に囲いこまれていることの不当性を告発するためのUW経済評価が、日本ではむしろ女性のそのような状況を正当化するかのような報道がなされていること、そして、97年の経済企画庁報告以降、UWを社会的・経済的に評価する制度・政策に結びついていかなかったこと、という2点が挙げられました。
今回のセミナーでは、女性の労働問題、PWの問題を考えるためにはUWの問題が不可分であり、その逆もまたそうであるということを明確に理解することができました。また、年金制度に関して、あらゆる人が社会保障の担い手として自立意識をもつこと、主婦か働く女性かという対立ではなく、マクロな視点で考えていくことの重要性を竹中先生が強調されていたことが印象深く、そのような視点は非常に重要だと私自身そう思いました。
第3次男女共同参画社会基本計画でようやく、UWに関する文言が盛り込まれるようになりました。UWに関する政策は今まさに始まったばかりだと言うことができるでしょう。
カテゴリー:セミナー「竹中恵美子に学ぶ」
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