2011.01.14 Fri
「ハナ通信」第1回で、私が初めて韓国を訪れた時のことを書きました。それは2001年のことでしたが、当時の私にとって、韓国の食事は色々な意味で口に合わず、1週間近くの滞在中、白米以外ほとんど箸がすすみませんでした。ですが、今では辛いものも含め、こちらで口にしたものの90%以上が「好物」になってしまったのですから、不思議なものです。
「韓国グルメ」は、韓・和・洋・中など、だいたいのものは揃っています。日本でも各国料理が日本で暮らす人々の口に合うように「日本風」にアレンジされているように、もちろん韓国で食べる各国料理も多くの場合「韓国風」です。
例えばトンカツなら、とても薄いかわりに、両手を広げたくらいの大きさであったり(なぜかは不明)。ピザなら・・・衝撃的だったのは、日本でも食べるようなこってりとしたクリームソースピザやカレーソースピザの縁を、たっぷりとしたサツマイモペーストがぐるりと取り囲んでいるもの。気付かずに頼んでしまった私と中国人の友人は、「サツマイモいらないよね」と、げんなりしつつ食べました。こちらではやたらサツマイモが人気なようで、色々なところでサツマイモメニューを発見できます。(サツマイモはハングルで「コグマ」ですが、「コグマ・ラテ」というメニューのあるカフェもあります)
「やたら人気」つながりで言うと、チーズもそうです。チーズ入りキムパッ(韓国風海苔巻き)は味が想像できるのですが、昨年発売されたインスタントの「チーズラーメン」は、とろりとしたチーズが美味しそうなCMに惹かれて思わず買ってしまいました。が、食べる直前にふりかけるよう指示されている添付の袋入りチーズは、実はチーズ‘風味’の粉で、想像していたものとはだいぶ違いましたが、「チーズはトッピングじゃなく、調味料!」と納得して、美味しく頂きました。
最後に中華料理というと、魚介類をふんだんに使ったチャンポン(とても辛いです)やジャジャン麺、タンスユク(韓国風酢豚)など、独自に発達(?)したメニューがあり、それは「韓国風中華料理」というよりは、「中華風韓国料理」と言えるでしょう。
そんななか、日本から来てくれる私の知人友人が「食べたいもの」として必ずリクエストするのが、ビビンパッとチヂミです。私もこちらに来るまではそうだったのですが、ビビンパッは多くの場合「石焼きビビンパッ」を想像するようで、「これぞ韓国料理」ということでしょうか。一方、「チヂミ」は本来東南地方(慶尚道)の方言だそうで、一般的には「プッチンゲ」や「~ジョン」(上にネギが載っていれば「パジョン」など)と呼びます。
日本でどういった経緯でこの二つが「韓国料理の代名詞」のように扱われるようになったのか、その事情をひもとく力はないのですが、とにかくこちらでは、石焼きビビンパッもチヂミ(プッチンゲ)も、一般的であれこそすれ・・・という感じのようです。そしてどちらも、私の経験上、それだけを食べようとすると、観光地にある専門店やフードコート以外では探すのに苦労する一品です。チヂミは飲み屋さんなどでお酒と一緒にという場合が多く、また石焼きではない簡単なビビンパッは、普段の簡易食として、また焼き肉の〆として食べたりもしますが、石焼きはなかなか・・・。(写真は「仁寺洞」で食べた石焼ビビンパッセット)
ところで、最近私は、戦前の日本人が記した旅行記を読んだりしているのですが、そのなかで気になったのが、「明月館」(ミョンウォルグヮン)という朝鮮料理専門店です。1903年創業のこの店は、宮廷料理長もつとめた人物が、王朝の没落に伴い宮廷を出てから開いた料理店で、高宗(コジョン。1852~1919)が好んで食したとされる冷麺をはじめ、「宮中料理を大衆に公開する」(※)といった名目ではじめられた店だそうです。その形式や接待方法などは、当時すでに京城(キョンソン。植民地期のソウルの呼称)に現れていた日本の「料亭」の影響を受けたものだったようです。(写真は、松原孝俊氏のHP「松原研究室」http://matsu.rcks.kyushu-u.ac.jp/lab/?page_id=9/よりお借りしました。)
明月館がなぜ気になったかというと、そこが「妓生料理店」(기생 요릿집。キーセン・ヨリチプ)として名を馳せ、日本人や一部朝鮮人に対する接待の場として、また様々な会合の開かれる場として、新聞でも度々目にするほどの有名店だったためです。そこは、朝鮮王朝時代から続く官妓制度の廃止などに伴って、行き場に迷う妓生の受け皿にもなっていたようですが、京城の「夜の文化」を担う一角だったということです。(写真は舞台で踊る妓生。写真は韓国日報「<韓日強制併合100年>植民地欲望の戦場、明月館」2010年6月7日記事http://media.daum.net/breakingnews/view.html?newsid=20100607211912710より)
「宮中料理」と言っても、具体的にどのような料理を提供していたか、詳しくは把握できていないのですが、当時のある日本人女子学生の朝鮮旅行記には、「御料理は十五種類か二十種類で、肉類がその主たるもの」、「朝鮮の漬物が二三種類」とあります。そして、料理とともに妓生による歌舞や接待を目玉としていたようで、この女子学生一行も、「食後は別室で妓生の朝鮮の音楽と舞を見た」そうです。女性がこの明月館を訪れ、妓生の舞台に触れること・・・男性が明月館を訪れる場合とはまた別の視点で考える必要があるでしょう。
お金を出せば誰でも、王朝時代の官妓であった妓生と宮中料理による接待を楽しむことができる――明月館のたどった道は、料理という側面からの朝鮮王朝の大衆化であると言え、同時に妓生という存在の大衆化であったとも言えます。それはもちろん大衆化されたというだけではなく、植民地における様々な力関係を象徴する場所でもあったでしょう。
明月館はやがて1948年に、京城で営業していた「料亭」の一軒として、一斉廃止の対象となり、門を閉じます。
さて、明月館は「朝鮮料理」と銘打って宮中料理を供していたようですが、では「韓国料理」「韓国グルメ」とは、何でしょうか?事実、韓国で食べることができる(美味しい)料理は、全て韓国グルメでしょう。最後に、少しだけ私のお気に入りをご紹介したいと思います。
一つは、「スンデグッ」。スンデは、豚の腸に香味野菜やもち米、唐麺(デンプン製の麺)を詰めて豚の血で固めたものですが、それを具に一人用の鍋(汁もの)にしたもので、この鍋にご飯を入れて食べると「スンデグッパ」になります。「豚の血」と聞くと敬遠しそうになりますが、コラーゲンたっぷりなトンコツスープが癖になるので、是非お試しあれ。
そしてもう一つは、「チムタッ」です。(写真8チンタッ)そのまま訳すと「蒸し鶏」ですが、蒸した鶏肉とじゃがいも、人参、ネギ、春雨などを唐辛子と一緒に蒸した料理です。店によってはけっこうな辛さですが、熱さに負けそうになりながらも、うま味たっぷりのスープがこれまた病みつきになります。ヤンニョンチキン(甘辛味付きフライドチキン)などとともに、こちらで人気な鶏肉料理です。ご飯と一緒にどうぞ!!
余談ですが、韓国では日本以上に、独りで飲食店に入りにくいという風潮を感じます(カフェやファーストフード店は別ですが)。リーズナブルなのに美味しいものが食べられる店がとても多いので、日本にいた時よりも気軽に便利に外食を楽しむことができるのですが、二人前から注文可という店が多いからという理由よりは、「一人で食事をする」ことに対する忌避感のようなものが、とくに女性の場合、強い気がします。誰かと食事をすることの楽しさやあたたかさは分かりますし、「今日は何食べよう」と相談しながら悩むのも魅力的なのですが・・・「おひとりさま」への目はまだまだ厳しいようです。
(※)「明月館 文化コンテンツ開発・構築」http://brightmoon.culturecontent.com/file/main.aspより。
このHPでは、明月館の歴史や関連資料、外観や内観を3D映像化したデータなどを提供しています(ハングル)。
≪追記≫
前回取り上げたドラマ「シークレット・ガーデン」の主演・ヒョンビン(1982~)に関わって。彼はこの3月に軍入隊を控えているのですが、海兵隊を志望、面接を受けたというニュースが最近韓国で話題です。
延坪島事件以降、むしろ志望入隊者が増えたとされている海兵隊。同ドラマで高慢な百貨店CEO、キム・ジュウォンとして「社会指導層」、「これが最善ですか?本当にそうですか?」などの流行語を作り出した彼の志望理由は、「元来の男らしい性格が影響を与えたのでは」、「韓国の逞しい男性として軍服務を送りたいと強く願ったのでは」などと報道されていますが、「やはり最善の選択!」「締めまでかっこいい!」ときわめて好意的に受け取られています。一方で、軍隊だけを持ち上げる風潮に対して、俳優ソ・ジソプが勤めた公益勤務要員も重要な任務であるという記事も現れたりしています。
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