レンアイ、基本のキ――好きになったらなんでもOK? (岩波ジュニア新書)

著者:打越 さく良

岩波書店( 2015-10-21 )

恋愛。バラ色のときもあれば、せつなく、悲しいときもある。切なさも不安も、恋愛の醍醐味。しかし、「醍醐味」を超え、赤信号がついている場合があるのではないか。恋愛をしているつもりが、相手を傷つけ、その尊厳を損ない、相手から傷つけられ、尊厳を損なわれている関係にはまってしまっていないか。

なぜ、弁護士である私が「恋愛」がタイトルにある本を書くのか、不思議に思われるかもしれない。「なんでおまえが」と。もちろん、私も、「恋の達人」を自称して、ハッピーな恋愛に向けた指南書を書くなんて大それたことはするつもりはない。タイトルをよくみてほしい。『基本のキ』。恋愛の最低限のルールについてなら、DV被害者の事件を専門とする私は語ることができる。DVのある関係も、最初から恐怖と支配だけがあったのではない。ハッピーな恋愛をしようとしたのに、暴力をふるい・ふるわれるという関係に陥ってしまったケースばかりといっていい。ハッピーになろうとしたのにそうでなくなってしまった恋愛にはかなり詳しいと自負する弁護士として、YA(ヤングアダルト)世代を対象として(しかし、もっと年長の世代にも是非手に取っていただきたい)、ハッピーではない関係に陥ったことのサインにどう気づけるか、そしてそんな関係からどのように脱することができるかを書くことはできる。

被害者になってしまうかもしれない人だけでなく、加害者(言葉はきついが)になってしまうかもしれない人にも、「それはDVではないか」と気づいてほしい。そのためには、いきなり「上から目線の説教調」では、読み進めてもらえないだろう、どう書いたら腑に落ちてもらえるだろうか、と悩みに悩み、書いては消し、消しては書いた。悩みがあらわになったままの文体かもしれない。必要なひとに受け止めてもらえますように、と祈る思いだ。

セックスのマナーや、別れるときのマナー(ストーカーに陥らないように!)も大切、両親の間にDVがある場合の相談先も知ってほしい、DVの背景にある「男・女」への様々な思い込みにも触れなければ…。周囲が手を差し伸べることが大切だから、友だちがDVをふるっていたりふるわれていたりした場合にどんなことをすべきかにも書かねば…。新書だからコンパクトに、と心がけたつもりが、必要な知識を盛り込んでいったらけっこう厚くなってしまった。書いている最中は、必要な情報を網羅しているが心配だったが、上梓した後は厚みをみて、YA世代が辛抱強く読んでくれるだろうか心配になる(苦笑)。まあ、さらさらっと読んで、「今は全然必要ない」情報ならば、それは本当に幸いなこと。自分がハッピーでない恋愛関係にはまってしまったら、あるいは、友だちがそんなことになっていたら、「こんなときのことを書いていた本があったな」と思い出してくれたら、と願っている。(著者)