2011.04.02 Sat
3月27日、ウィメンズカウンセリング京都の公開講座「性暴力禁止法をつくろうネットワーク全国縦断シンポジウムin京都」を開催した。第一部のシンポジウムでは、高里鈴代さん(「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」、「強姦救援センター沖縄」代表)と近藤恵子さん(全国シェルターネット共同代表、「性暴力禁止法をつくろうネットワーク」呼びかけ人)のお話を聞き、第二部「言わせてほしい、聞いてほしい」では、女性や子ども、男性やセクシュアルマイノリティ、外国人に対する性暴力防止に取り組む11団体、被害当事者からのアピールがあった。
私は、東日本大震災から2週間目に、この集会を開催することの意味を思った。DV夫から逃げて母子生活支援センターで過ごしているあるDV被害当事者は、私とのカウンセリングで、「被災者の姿を見ると泣けて泣けて、赤ん坊と子ども(小2)の世話もできない。私のできることはないかとあっちこっちに電話をかけた。『生活保護でのうのうとしている自分はなに?』と思う。郵便局に義援金を振込みに行った。自立のための貯金を全部出そうかと思ったけど、それはやめた」と語った。彼女はDV夫から逃れて着の身着のままで遠隔地から関西の母子生活支援センターに逃げてきたのだが、その自分の姿は避難所の被災者の姿に重なった。DV被害とは、あの地震と津波によってすべてを失う体験に似ている。その上、彼女と子どもたちの場合には、地域社会での人びと、学校での友だちとの繋がりまでもが奪われてしまったのだ。
この3月27日は、パープルダイヤルの最終日でもあった。パープルダイヤルとは、内閣府男女共同参画局による「性暴力・DV全国無料ホットライン」のことであり、2月8日から3月27日まで、24時間の電話相談が行われた。女性相談、男性相談、外国籍の方への相談、被害の急性期相談に分類され、全国42相談拠点における相談対応と、61拠点における付添支援が実施された。近藤恵子さんから、3月21日現在のトラフィックレポート(通信会社の記録)における女性相談は27,890件だったとの報告があった。単純計算をしても1日に664件の電話が架けられたことになる(話し中による応答不可ケースを加えるともっと多くなる)。追って報告書が出されるが、こんなにも沢山の人たちが、性暴力やDVについて誰かに話し、相談したかったということである。
2009年に内閣府が公表した「男女間における暴力に関する調査」によれば、身体的・精神的・性的暴力のどれか1つを受けたDV被害者は、33.2%である。3人にⅠ人がDV被害者ということになるが、DVの専門相談窓口を訪れた人は1~3%にすぎなかった。また、「強姦被害を受けた女性」は7.3%であり、日本の5歳以上60歳未満の女性に換算すると307万人に当たるという。そして、「その被害をどこにも誰にも相談しなかった女性」は62.6%にのぼる。
こうした「女性に対する暴力」の現実に対して、「第3次男女共同参画基本計画」の第9分野「女性に対するあらゆる暴力の根絶」では、成果目標を掲げた取組みが示された。たとえば、①「夫婦間における『平手で打つ』『なぐるふりをして、おどす』を暴力として認識している人の割合」を見てみると、2009年では「平手で打つ」を暴力として認識している人は58.4%、「なぐるふりをして、おどす」を暴力として認識している人は52.5%に過ぎない。この割合を4年後の2015年には100%に引き上げるとしている。同じく、②「配偶者暴力防止法の認知度」を、76.1%(2009年)から100%に。③配偶者からの相談窓口の周知度を、29%(2009年)から67%に。④市町村における配偶者暴力相談支援センターの数21か所(2010年)から100か所に。⑤性犯罪被害に関する相談を受けていることを明示して相談を行っている男女共同参画センターを、22都道府県(2010年)から各都道府県に最低1か所設置とする。
最低、これらの施策については完全実施を目指してしてほしい。パープルダイヤルでも、夫からの暴力を語りながら、「これはDVなのでしょうか?」と尋ねるケースが多かった。とくに、DV防止法のない時代を生きた60歳代以降の高齢被害女性や「知的障害」をもつ被害女性などへの支援も急務である。一時保護などにあたっても、高齢福祉・障害福祉分野との連携も必要だろう。
さらに、パープルダイヤルにおいても、私のカウンセリング経験においても、DV被害に比べて強姦や強制わいせつケースの相談は少ない。未だ口にすることがはばかられる被害体験なのだ。ジェンダーの視点のない警察や医療機関などで、性暴力被害者が被害を訴えて傷つくことも少なくない。なぜなら「強姦神話」を下敷きにした「そんなに嫌ならなぜもっと抵抗しなかったの? なぜ逃げなかったの?」という二次加害(セカンド・レイプ)を受けるからである。それゆえ「誰にも話したくない。理解されるはずがない」と考えている被害女性はまだまだ多い。しかし、被害を訴え、被害を語ることなしに、性暴力というトラウマ体験からの心理的回復はありえない。上記⑤をみると、全国の22か所の男女共同参画センターでしか性暴力被害相談を実施していない。早急に、安心して訴えることのできる相談窓口や、フェミニストカウンセラーの配置が望まれる。
フェミニストカウンセリングでは、被害当事者の訴えを受け止め、たとえばDV・強姦・セクハラ・性的虐待事件そのものについて、その被害者心理や行動について、また後遺症やPTSDなどについての的確な情報提供(心理教育)をし、その上で、ひとりひとりのトラウマ・ストーリーの再構築をサポートすることを目的としている。
詳述できなかったが、基本計画では、「子どもに対する性的な暴力の根絶」「売買春」「人身取引」「セクシャル・ハラスメント防止」「メディアにおける性・暴力表現への対応」にむけた対策の推進を掲げ、これらの多様化した「女性に対する暴力」の根絶に取組むとしている。
最後に、ウィメンズカウンセリング京都は、1995年の阪神淡路大震災の年に開設された。14人のメンバーは、ほぼ当時と同じメンバーである。開設当時から、DV・性暴力、摂食障害、母娘関係といった相談に関わってきた。いずれの相談も、ジェンダーの視点基づいて、個人的責任を追及するのではなく、「personal is political」倫理を追求するフェミニストカウンセリングにふさわしい問題であった。また、性暴力被害当事者のアドヴォケイト(代弁・擁護)役割を果たすために、性暴力裁判において意見書を提出し専門家証言をして、被害当事者の誤解されやすい心理や行動を法廷で代弁してきた。
こうしたフェミニストカウンセリング実践を通して、男性中心の法や法廷そのものがDV・性暴力被害(者)に関していかに無知・無理解であるかを実感した。これらの経験が、被害当事者のための社会的・心理的・法的支援を求める「性暴力禁止法をつくろう」の運動に結びついたわけだが、3月27日の熱気に満ちた集会から、この運動を進める意味と希望を与えられた。なにより被害当事者にとって有効な法律をつくりたいものである。
タグ:DV・性暴力・ハラスメント / 井上摩耶子
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