エッセイ

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宇宙をめざす~asukaの育児休業日記(1)

2011.04.10 Sun

第1回 宇宙と私、そして育児が教えてくれること   asuka

宇宙に向かって進め!

 「宇宙」という言葉には、どこかどきどきするような響きがありませんか?

 私はその「どきどき」に子どもの頃から、そして今でも捕らわれ続けている一人です。漆黒の中にぽっかりと浮かぶ青い地球の写真を見ては鼓動が早まり、親に頼み込んで科学系雑誌を購読(ただし表紙だけで満足して積ん読)、憧れの人は芸能人ではなく宇宙飛行士。大学の卒業旅行では、宇宙に全く興味のない友人を無理やり連れて、アメリカにあるケネディ宇宙センターへ向かいました。延期を見込んでスペースシャトル打ち上げ予定の数日後を狙って滞在予定を組んだところ、シャトルは予定通りに打ちあがってしまい(?)、成功は嬉しいもののちょっぴりがっかりしてしまったのを覚えています。

 自分だって将来は宇宙に行きたいと願い、小学校の卒業文集での将来の夢はもちろん「宇宙飛行士」。就職では夢を半分実現し、国際宇宙ステーションで行われる実験に携わっていました。仕事では、忙しさのあまり混乱したり、自分の至らなさに落ち込んだり、思い通りに事が進まず悔しい思いをしたりすることも多々ありましたが、刺激的な人々や出来事と出会える楽しい毎日でした。

 そして現在は育児休業を取り、二人の娘を育てています。

「子どもを育てるという経験」

  長女を出産したのは入社四年目、ようやく仕事が面白くなってきた頃。早く復職しないと周囲の同僚に迷惑をかけるという気持ちと、せっかく覚えかけた仕事を忘れてしまうのではないか、自分の仕事がなくなってしまうのではないかという不安と焦りに押され、産後七ヶ月で復職しました。

 次女の育児休業中の現在も、宇宙開発関連のニュースを見たり、同僚の活躍について聞いたりすると、早く仕事に復帰したいという焦りを感じることがあります。しかし同時に、長いライフスパンで見ればこの育児休業は得難いチャンスでもある、と考え方が変化してきました。仕事が好きだという気持ちは変わりません。しかし、仕事から離れ、子育てに没頭し、自分を見つめなおす時間があり、仕事以外の経験を積むことができる育児休業を通して、私が得られたものはたくさんあります。

 子育てをする中でまず得られたもの、それは「子どもを育てるという経験」でした。

 それまでの人生にも転機は幾つかありました。大学入学と共に始めた一人暮らし、就職、そして結婚。これらは大きな変化ではあったものの、生活の変化は予測範囲内でした。結婚後ですら、夫も自分も忙しく、互いの仕事を認め合っていたこともあり、起きている時間の大半を仕事に捧げるようなライフスタイルは変わりませんでした。自分自身のことだけにひたすら専念し、困難にぶつかっても自分さえ無理をすればなんとか処理できていました。

 ところが。

  子どもというのは想像を絶する不確定要素だったのです。全く思い通りになりません。食べたいときに食べ、寝たいときに寝て、欲求が満たされなければひとまず泣いてみる。TPOなんて完全に無視です。先日も一泊二日の旅行に出かけたところ、一日目の夜に長女が発熱したため二日目は観光も諦め直帰する羽目になりました。それなのにすっかり元気になった本人は「○○行きたかったのにどうして帰ってきちゃったの?」などと、のん気なものです。

 人生に初めて、絶対的に自分よりも優先させて、考慮し、庇護しなければならない存在が登場したのです。

 子育てを経験することでようやく、親の偉大さが理解できました。私の両親はかなりの放任主義でした。私の高校受験の日程を忘れて、受験当日に私を含む家族旅行計画を立ててしまう程に。そのため、子育てに関しては「手抜きしすぎ」と落第点をつけていました。しかし今では、一人の人間をここまで育ててくれたこと、その労力に敬意を払うと共に、非常に感謝しています。子どもができた友人達からは、同じ様な親に対する感謝・尊敬の気持ちの発露について、よく聞きます。

  ここまでの価値観の変化は、今までに体験したことがないものでした。想像力だけでは補えない、「自分がその立場にならないとわからないこと」があったのです。立場が違えば物の見方も価値観も違うこと、皆が自分と同じ考え方や価値観をもっているわけではないこと、そんな当たり前のことをようやく体感できました。

「思い通りにいかないこと」に対する耐性

 仕事において、思い描いていたとおりに物事が進まないと、悔しく腹立たしく感じたものです。

 特に外国との国際協力プロジェクトでは、期日が守られなかったり、計画通りに仕事が運ばなかったりすることが頻繁に起こり、予定外のトラブルにいらいらすることがありました。

 「Next Thursdayにスケジュール送るから!」と言われたきり、その週の木曜日にも、次の週の木曜日まで待っても連絡が来ない、問い合わせると秘書からの回答は「彼は今日から研修ですよ、二週間」なんてことも。イスラム圏から来た仕事相手に突然、「豚肉を一度も温めたことがない電子レンジを用意してほしい」と言われたこともあります。長期間、予備的な実験を行って準備してきたプロジェクトが、突然相手国の都合でキャンセルになることだってあります。

 しかし、思い通りに行かないというのは当然だと、今では考えられるようになりました。国や文化すら違うのですから。

 以前は思い通りにいかないことに腹を立て、無理にでも自分のやり方に合わせてもらうことに尽力していました。しかし「子どもを育てるという経験」を経て、違う価値観を持つ相手も受け入れた上で、協働できる方法を見つけることに注力したいと思うようになってきたのです。私にとって正しい、こうあるべきだと考えてしまうこともまた、自分だけの価値観―そう気づいたのです。

 自分の力だけではどうにもならないものがあるということを理解し、それに怒りをぶつけるのではなく「ありのまま受け入れる」―これは子育てを通して学びつつあることの一つです。

 少なくとも、子どもたちが毎日起こしてくれる「思い通りにいかないこと」に対し、徐々に耐性(諦め?)ができてきているはず・・・です。

 これから、子育てや育児休業の中で得られた経験を通して、子どもの成長、自分の成長について綴っていきます。願わくば、このエッセイが、「あなたの成長」にも少しでもお役に立てますように。

今日の宇宙マメ知識

(C)JAXA/NASA

 今回は国際宇宙ステーションについて。国際宇宙ステーションは宇宙に浮かぶ大きな研究所で、その中では宇宙飛行士が様々な実験を行っています。地上から400km(東京-大阪間)の高さを、地球一周約90分の速度で回っています。

 そして、条件さえ合えば肉眼で見られます!見られる場所・時間帯は以下のHPをご参照ください。

ISSを見よう:http://kibo.tksc.jaxa.jp/

 私も夜空を飛ぶ宇宙ステーションを見たことがあります。星によく似た光点が一つだけ、すーっと自由に星の間を横切っていく。その中に人が乗って地球の未来のため実験を行っている。そのように考えるだけでわくわくして、宇宙を身近に感じられませんか?

カテゴリー:asukaの育児休業日記

タグ:子育て・教育 / 育児休業