2011.08.16 Tue
『祝の島』(纐纈あや監督/2010) 原発が壊すもの 是恒香琳
山口県上関町の祝島は、瀬戸内海の端、豊後水道に浮かぶハート型の島だ。
30年前、4キロ先の対岸に、原子力発電所の建設計画が持ち上がった。以来、島民は反対運動を続けてきた。
原発は、過疎の、何もないとされる場所を狙って作られる。この映画は、その何もないとされる場所にあるものを、描き出している。
祝島では、鯛の一本釣りが盛んだ。漁師・正本さんは「いらっしゃいませよ」「よう来てくれたな、おまえよう」と鯛に声をかけながら釣りあげる。島でただ一人の女漁師・民子さんは「(海は)私らの命よ。ここで生活して、ここまで大きくしてもらったんじゃからね」と言う。海と共に生きている人の言葉である。
山の斜面には、天空の城のように築かれた棚田がある。絶壁に、人の背丈ほどあるような岩が積まれている。機械が入らないので、全て人力で作られた。上から岩を落としながら組んでいったそうだ。
おじいさんの亀次郎さんが30年かけて作ったこの棚田で、77歳の平萬次さんは、7歳の時から米づくりをしている。苦労した田も、次の代に引き継がれることはない。
亀次郎さんは、孫の代で、この棚田は無くなると予言していた。だから原野に帰っても、後悔はないと言う。「都会の人は身の丈以上のものを求めているように思う」という萬次さんは、人間に身の丈を知っていて、自然を支配し続けようとはしないのだ。
萬次さんは夜になると、お向かいの家に行って、いつもの友達とお茶を飲んで過ごす。うとうとすると、炬燵布団をそっとかけ直してくれる友達がいる。
島には200軒に及ぶ空き家がある。家を残したままにしておくのは、老後はこの島に戻りたいと思っている人が多いからだ。ここには、人と過ごす楽しい時間がある。
「島の生活は時代遅れで、子や孫に見捨てられているじゃないか」と、原発を持ち込もうとする人たちがいる。たしかに、コンビニも美術館もなんにもないが、そこには海や山と共に生きる、力強い島のくらしがある。暖かな人間関係がある。それを、大切な価値として認め、守ってきた人々がいる。
同じく祝島を舞台にしたドキュメンタリー映画『ミツバチの羽音と地球の回転』(鎌仲ひとみ監督/2010)は、島の暮らしを、これからの新しい社会の在り方として捉え直した。私たちが向かうべきなのは、持続可能な自然との共生社会なのだ。さらにスウェーデンを例に、脱原発への具体的な道筋を示す。(『ミツバチの羽音と地球の回転』公式サイトはこちら)
取り残されてしまった田舎を、新たな産業を持ち込んでなんとか都市化すべきだ。だから原発を、という人たちに、まず『祝の島』を観て欲しい。祝島の人々が、大切にしてきたものは何か。それが無くなって、人間は本当に幸せになれるのか。この映画を観て、確かめてほしい。
『祝の島』公式サイトはこちら
ドキュメンタリー映画『祝の島』
(纐纈あや監督/2010/日本/105分/カラー)
(c)ポレポレタイムス社
上映:2011年8月27日(土)よりアップリンク(東京都渋谷区)にて、15:45~。
他、各地で上映中。詳細はこちら
作品詳細
監督:纐纈あや
プロデューサー:本橋成一
撮影:大久保千津奈(KBC映像)
編集:四宮鉄男
音響設計:菊池信之
ナレーション:斉藤とも子
制作:石川翔平
協力:祝島のみなさん、KBC映像、祝島島民の会、映画「祝の島」を応援する会
製作:ポレポレタイムス社
カテゴリー:新作映画評・エッセイ
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