2011.09.20 Tue
ソクラテスという、賢人の名をもつポルトガルの前首相は、今年3月、緊急緊縮財政策を提案、議会で否決され、20万人のデモに押されて辞任。6月の総選挙で政権交代、党首の座を退いた。
ギリシャに端を発するユーロ危機は、ポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリアへと火種を広げ、今なお予断を許さない。
YouTubeは、リスボンのメインストリート・リベルダーデ通りを、「Geracao a Rasca」(失業・低賃金で希望をもてない世代)とプロテストして、厳しい表情で歩く若者たちを映していた。
3年前の9月、私は、その同じ場所、白と黒のモザイク模様の石畳を、のんびりと歩いていた。2008年9月15日のリーマン・ショックの直前だった。
リスボンは7つの丘の町。ケーブルや市電が、家をかすめ、すり抜けて走る。裏通りには庶民的な小店がたち並ぶ。坂を降りて買い物にきた、ちょっと認知症かな、と思えるおばあさんに、店の人が品物を渡して、やさしく何度も繰り返し説明していた。
窓から突き出た竿に満艦飾の洗濯物がはためき、お昼どきは、ご馳走のにおいが漂う。ふらりと、ねこがやってきて「中に入れてよ」と戸を叩く。地元の食堂でスープやイワシの塩焼き、アローシュ・デ・マリシュコ(シーフードリゾット)をワインとともに楽しむ。そばでは若い男の子たちがサッカー談義に夢中だ。
リスボンもシントラも、コインブラもポルトも、ドウロ川上流のワインの産地ピニャオンも、当時、1ユーロ150円くらいだったと思うけど、食料品も宿代も、ほんとに安かった。おまけにCP(国鉄)は高齢者は半額で、申し訳ないくらい。
ポルトのポリャオン市場前のお店で買ったコンペイトウは忘れられない。木箱やガラス瓶に調味料やお菓子、岩塩などがぎっしりと。すべて計り売りだ。白とピンクの星型のコンペイトウは1キロ300円もしない。紙袋にくるくるっと包んで手渡してくれた。
今年、米寿を迎えた母は、私が海外に行くたびに「大丈夫?」と電話をかけてくる。お土産のコンペイトウをひとつ口にして、「あっ、昔の味がするね」と喜んでくれた。あんなに旅に出るのを心配する母が、どういうわけか、「あのコンペイトウ、もういっぺん買ってきてくれない? またポルトガルに行ってきて」と言うのが、なんだかおかしかった。
もうひとつ、私のまぬけなお話。リスボンのアウグスタ通りのショッピング街でパントマイムの彫像を見かけた。何時間もじっと静止している大道芸。あまりの見事さに、しばらくボーッと眺めていた。
そして数日後、ポルトへ。アズレージョが美しいサン・ベント駅近く、ポストの横で、じっと立っている人がいる。朝早い列車で古都ギマランイスへ日帰りの旅。夕方、帰ると、まだ立ったままだ。「あの人、朝からずっと動いてはらへんけど、しんどくないのかな」。するとツレは、あんぐりと口を開け、「あれは銅像のポストマンだよ」と呆れて私の顔を見るや、プッと吹き出した。だって、てっきり本物の大道芸人と思い込んでいたんだもの。
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