2012.01.15 Sun
英題:YELLOW CAKE THE DIRT BEHIND URANIUM
原発の燃料はどこから Where are nuclear fuel from? Text by Karin Koretsune
この映画は、原発の燃料であるウラン鉱石の採掘現場を、取材したドキュメンタリーだ。オーストラリア・カナダ・アフリカのナミビア・旧東ドイツにある、ウラン鉱石採掘所が取り上げられている。東電をはじめとする日本企業は、原発稼働のために各地のウラン鉱山の開発に出資し、ウランを輸入してきた。
ウラン採掘所には、巨大な灰色の山が並ぶ。炭坑のボタ山と同じ風景だ。そして、放射性廃棄物を貯めている濁った巨大な池もある。その、埃っぽい山と池の風景の中に、生きている人たちが存在していることを、映画は伝えてくれる。
「少しの燃料で、大きなエネルギー」と言われてきた。しかし、その「少しの燃料」が、どれほどの問題を巻き起こしながら産出されてきたか、また、人々がどんな犠牲を払っているかについては、なかなか意識が及ばない。
たとえば、ナミビアのオバンボ族の女性だ。彼女は、男たちにまざって、大型車を運転し、爆薬を扱う。男達はダマラナマ語を話しているため、彼女には何を話しているかわからない。そのような状況で、彼女はたった一人、危険な重労働に体を張っている。「プロフェッショナル 仕事の流儀」などの番組で、スポットライトを浴びてもいいような、仕事人である。美容院へ行き、パーマをかけ、マニキュアを塗ってもらっている彼女は、格好いい。
しかし、「どれくらい被爆しているのか、知っているか」という質問されると、輝きは一瞬のうちに消え失せた。すこし間をおいてから「よく知らない」と答える表情は暗い。放射能の害については、うすうす知っているのだ。被爆をするような労働であることが、彼女の誇りや日々の真面目な努力を、台無しにする。
それでも彼女は、生活のためにお金を稼がなくてはならない。採掘所のプロパガンダを信じきっている訳でもないが、隠されている情報について考えないようにしているのだろう。原発につきまとう微妙なニュアンスを、映画は見事に捉えている。
一方、灰色の世界に対置して登場するのが、オーストラリアのジェフリーさんだ。彼は、先住民族アボリジニのジョーグ族である。そして、クンガラ地区の伝統的所有者だ。この広々とした緑の美しい熱帯雨林には、クンガラ鉱床が眠っている。
このクンガラ地区の開発を狙っていたのが、フランスの世界最大の原子力関連企業アレバ社(旧・フランス国立原子力開発機構)だ。アレバ社は、オーストラリアの長者番付上位にあがってしまうほどの多額のお金を、ジェフリーさんに提示した。ところがジェフリーさんは、このお金を拒否する。
彼は「どうしてこの美しい土地を掘り返す必要があるのか。この土地は何でも与えてくれた」と語っていた。
2011年6月、彼がお金に換えずに守り抜いたクンガラ地区は、世界遺産「カカドゥ国立公園」に編入されることになる。
「何でも与えてくれる」と言えるような自然が、ジェフリーさんたちアボリジニの文化にはある。その自然と共存する文化が、ナミビアや、原発交付金をあてにする日本の過疎地にはない、ということなのだろうか。
夢のクリーンなエネルギーという原発の嘘に、ただ騙されているだけではないか。
この映画は、その嘘を明らかにする。
まず、ウラン鉱石を掘ったら、そっくりそれが燃料になるわけではないということだ。「少しの燃料」を生みだすためには、大量のウラン鉱石が必要となる。数グラムのウランを得るために、1トンもの放射性廃棄物が生じる。次に、残された大量の放射性廃棄物は、周辺の環境を汚染し、労働者や近隣住民を、危険にさらし続ける。そして、その危険は誰にも知らされない。
原子力利用が巻き起こす問題は、原子力発電所の建設する自国だけにはとどまらないことが、この映画からよくわかる。産出国の被害の上に、私たちは安全な場所にいながら、エネルギーを享受しているのだ。
この嘘を知って、私たちはジェフリーさんのように「原発はいらない」と言うのか。それとも、オバンボ族の女性のように、黙々と最期の日まで働き続けるのか。未来は選択できる。
(日本女子大学 史学科2年 是恒香琳)
『イェロー・ケーキ クリーンなエネルギーという嘘』
(ヨアヒム・チルナー監督/2010年/ドイツ/108分/配給:パンドラ)
©2010 Um Welt Film Produktionsgesellschaft
公式HPはこちら
2012年1月28日(土)~ UPLINK(渋谷)
2012年2月18日(土)~ 大阪シネ・ヌーヴォ にて公開
カテゴリー:新作映画評・エッセイ / 脱原発に向けた動き
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